(2015/11 取材)
長南 やはり日本とアメリカではそもそもの考え方が違うのでしょうか。
宮田 日本って良い国ですよ。アメリカは安定しているということがあまりない。アメリカにいると死ぬ気がするというか(笑)要するに、生命のリスクがそもそも存在しているんですよね。警察も全く丁寧には動いてくれないので、自分の身は自分で守らなきゃいけないという感覚がとてもある。でも、日本は社会保障が素晴らしい。日本では死なないでしょ。
長南 海外に行くと目つきが変わって、目にすごく力が入るじゃないですか。やっぱり身に危険を感じるから、だんだんそうなっていくんですかね(笑)
宮田 分からないですけどね(笑)日本ってやっぱり安全なわけですよ。病気になったら病院に行くでしょ。アメリカでは、病院に行ったらいきなり100万円かかるから行かない、という人がいっぱいいますから。
長南 トマトが厳しい環境の方が甘くなったりするように、厳しい環境の方が色々アイデアも出てくるんじゃないですか。
宮田 「奇跡のリンゴ」ですよ。日本ってやっぱり過剰なんですよね。介護保険も義務教育も含めて、常に「守る、守る」みたいなモノカルチャーだから、非常に均一だと思います。
長南 これは言語にも起因するかもしれなくて、一人の人間でも日本語と英語を話す時に、明らかに性格が変わったりするんですよね。
宮田 僕もそうです。日本語と英語で明らかに性格変わります。変わらないと話せない。たぶん、言葉が持つ特性だと思います。だって、日本語の時は身体が動かないです(笑)でも、英語は手を動かしながらじゃないと話せないんですよ。
長南 言葉が強いし、単語を並べる順番も違って「私は」から話しますからね。
宮田 それは言いますよね。ただ、やっぱり日本人っていうのは守られていることによる弊害がとっても大きいな、と。
長南 ITで海外に出ていって成功する企業が少ないのも、グローバル化というかちゃんと世界展開できる企業が少ないのも、そういうところに要因があるという感じでしょうか。
宮田 それはすごくあります。シリコンバレーが良いなと思ったのは、ダイバーシティがあるからなんですよ。ものすごい競争とリスクの塊で、色々な国から来ている理解できない人が周りにいるわけだから、ものすごくエントロピーが高くてエネルギーしかないんですよ。不安定な要素ばかりですからね(笑)
長南 やっぱりシリコンバレーは特殊なんですね。アメリカでも、田舎の方に行くとほんわかしているところも当然ありますからね。
宮田 あります。アメリカ人しかいないところはミッドウェストに未だにあって、イノベーションがそこからガンガン生まれたりはしないわけですよね。そういう意味で言うと、1960〜1970年代、日本が成長したのも必然で、中国がこの10年に成長したのも必然だし、インドネシアとかが成長したのも必然で、非常にステージとしては分かりやすいですよね。今、日本が衰えているのも必然だし。この後何が起こるかは分からないけど、今この状況で皆でめっちゃ「起業しなきゃ、やばいよ」って言っても、「いやいや、まぁ、そこそこ行けるし」って若い子はたぶん思っちゃうわけですよね。
長南 公務員とか良いですからね。高校生に起業についてイメージを聞いたら、「お金の心配」『半沢直樹』「破産」。『半沢直樹』では銀行がダーティーな感じで描かれていましたからね。今後の日本はどうすれば良いんでしょうか。
宮田 日本のスタートアップ業界を20年くらい見ていますが、一歩一歩、確実に進んできていますよね。これだけ大学や銀行のVCができているのはすごいことですよ。波はありますけど、でも、一歩一歩進んでいる。1997年に僕がアメリカの会社に入ったことは異端で、親がものすごく泣きました。その後、会社を始めたと言ったら「何考えてんの!」と、もう大変でした。でも、今は一流の、東大や早稲田の子たちが先頭切って起業したいってなりつつあるし、昔なら絶対に官僚や外資コンサルを目指していたような人が起業しているので、これは変わると思いますよ。
長南 大学生を見ていると、明らかに2000年の時に一度がらっと変わって、今はNPOとかにも人がすごく流れているのを感じますね。アメリカでは、優秀な人材がNPOに流れているという感覚はありますか。
宮田 Y Combinatorっていう、アメリカで一番有名なアクセラレーターでは、1回あたりのデモ・デーで110社くらい出るんですけど、たぶん20個はNPOですよ。NPOとスタートアップはある意味同義で、じゃあスタートアップとは何かっていう議論になるんですが、日本の場合は利益を生むことが大事だって言われるのに対して、シリコンバレーの人達は「発明」しているんだと僕は思うんですよ。つまり、社会にとって何が大切かっていう発想で始めている。例えば、山中先生は人類が困っている問題を解決するためにiPS細胞を作っていると思うんですけど、スタートアップの人が新しいソフトを作る時も、仕事の効率性をもっと良くしたいという社会課題を解決するためにやっているから、それは生命科学の研究と同じ。NPOも、困っている人がアフリカにいれば、エネルギーを供給するためにソーラーパネルをたくさん置いてインフラを作る。これは利益は出ないけれど、ここに課題があるからそのモチベーションに対して邁進していって、必要なお金を調達したい、と。つまり、研究も会社もNPOも、社会課題を解決するっていう意味では同じ。だから、日本のスタートアップだと中々1兆円規模まで行かない理由の一つが、視点が小さいことだと思うんですよ。利益を出すというところに行きがちで、ファンダメンタルな社会的課題の解決になっていない。
長南 アメリカは、NPOでもお金が集まる社会になっているんですかね。
宮田 お金持ちな人たちがそういうところに対してちゃんと還元してくれていますね。マーク・ザッカーバーグは30歳の若さでめちゃくちゃ寄付しまくっているわけじゃないですか。ビル・ゲイツ(Microsoft 共同創業者兼元会長兼顧問)とかマーク・ベニオフにしたって、本質的にちゃんと還元して次の世代を作ろうとしているんだと僕は思います。日本でも0というわけではないですけど、もっとやってくれたら良いな、と思いますね。
宮田 拓弥氏TAK MIYATA
スクラムベンチャーズ 創業者兼ゼネラルパートナー
早稲田大学大学院理工学研究科修了。エンジニア、インターネットビジネスコンルタントを経て、2002年米国南カリフォルニア大学発のベンチャー企業、NevenVision, Inc.日本法人に入社(2005年 代表取締役社長就任)。画像認識技術を活用した各種アプリケーションの開発を指揮。ボーダフォン、NTTドコモなどの携帯電話向け次世代機能として技術提供を行う。2006年8月、米Google Inc.による同社本社の買収を期に、代表取締役社長退任。2005年10月、ジェイマジック株式会社を設立、代表取締役に就任。" We Create Magic! "をキーワードに人々のライフスタイルにインパクトを与えるようなサービスの企画・開発を行う。