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INTERVIEWS WITH INVESTORS

(2015/11 取材)

研究者が起業する文化とペイフォワード

投資家インタビュー Vol.8 スクラムベンチャーズ宮田拓弥氏 研究者が起業する文化とペイフォワード

長南 日本とアメリカでは、技術者のレベルに差はあるんでしょうか。

宮田 僕は差があるとは思わないです。日本の技術者のレベルは高いと思います。ただ、ソフトウェアのほとんどが英語なのに対して、日本人は英語を話さないという問題は決定的にあるので、日本人が日本語を話している限り、日本のソフトウェアの世界からウォークマンのようなすごいものが生まれるのは難しいと思っています。だから僭越ながら、大きくなった会社が社内共通語を英語にしたいという気持ちはものすごく分かります。たぶんそういう風に感じるんだと思うんですよね。日本ってそこそこGDPが大きいし、総人口も多くてなんとか食っていけちゃうから、すごく難しい立ち位置にいると思います。

長南 アメリカの事業買収のスピードとか人の考え方というのも、やはり進化していますよね。

宮田 まずソフトウェアもハードウェアも含めてコンポーネント化がすごく進んでいることで、買いやすくなっている。だから例えば1人のエンジニアで1億円、5人いるから5億円みたいな買収をした時に、人っていう小さなコンポーネントを転用することもできるし、小さなソフトウェアのコンポーネントを買った時にはAPIとかプラットフォームで部品のようにはめられるので、技術的な背景でM&Aがしやすくなっているのは事実だと思います。

長南 未だに人目当てで買収が行われる傾向が強いんでしょうか。そういった形でのM&Aは日本だと少なくなってきたような気がするのですが。

宮田 それはかなり頻繁に起きていると思いますね。

長南 でも、買収されているのは本当にトップティアの技術者ですよね。

宮田 日本とアメリカで依然として決定的に違うのは、日本ではピカピカの研究者は研究所にいるし、社会に出た研究者もやっぱり大手企業の研究部門にいますよね。でも、アメリカでは確実にそういう人たちが起業している。研究所を出るんです。

長南 それは研究所を出る誘因があるんですか。それとも文化なんですか。

宮田 あのね、文化なんですよ。僕も面白いなと思っていたのですが、調べてみたらスタンフォードの情報科学の先生で起業したことがある人って5割いるんですよ。東大は0でしょ。

長南 ほとんど0でしょうね。大学から離れたら、中々教授に戻れないですもんね。

宮田 ところが、アメリカでは全然戻れるわけですよ。それこそ意外と日本人が知らない話で言うと、スタンフォードの今の学長ってGoogleの役員なんですよ。彼は起業しているんです。彼自身が創業CEOなんですよ。

投資家インタビュー Vol.8 スクラムベンチャーズ宮田拓弥氏 研究者が起業する文化とペイフォワード

長南 そういう人が上に立ったら、自然とそういう文化になりますよね。そういう社会というか。

宮田 だから最近、山岸さん(山岸広太郎氏、株式会社慶応イノベーション・イニシアティブ 代表取締役社長、元 グリー株式会社 取締役副社長)が慶應のファンドを作ったことはとても良いことだと思っていて。山岸さんは慶應の学長になろうとはしないかもしれないけど、ああいうところのトップにいます、と。極端な話、福澤諭吉だって起業家なわけじゃないですか。だから、そういうのがあっても良いなぁと。

長南 アメリカではそれができているけど、日本でできないのはなぜでしょうか。

宮田 色々な要素があると思うんですけど、アメリカはやっぱり、学と民の距離が近いんですよ。僕が日本の研究所に少しいた時には、「研究者は金のこと考えちゃいかん」って教わったんですよ。営利目的が入ると研究がおかしくなる、と。遺伝子操作とかメディカルな世界だと当然色々な問題がありますけど、物理の世界でもそういうことを言われちゃうんですよね。「研究で儲けるのは悪だよね」みたいな。

長南 アメリカでは研究者が儲けるんですよね。

宮田 儲ける人はめちゃくちゃ儲けています。大学の教授はめちゃくちゃエンジェル投資をしていますよ。でも日本の先生は、あまりお金を持っているわけではない。やっぱり、チャレンジするとスーパースターになる、っていうところが決定的に違いますよね。

長南 もしかしたら、お金の話を表立ってするのは汚い?いやらしい?っていう日本人の根本的な価値観がそうさせるんでしょうね。

宮田 それはね、すごくあるんですよ。基本的にフィランソロフィーって、お金を持っていて余裕がある人がやるわけですよ。でも日本って、お金を持っているとは中々言い辛いじゃないですか。一方のアメリカは、社会に還元する気持ちがすごく強い。例えば、サンフランシスコの小学校に1人1台Chromebookがあるんですけど、このお金はマーク・ザッカーバーグ(Facebook 共同創業者兼CEO)が出していて、ザッカーバーグはあの辺りの小学校向けにパソコンを1人1台与えられるように寄付しているんですよね。マーク・ベニオフ(SalesForce 会長兼CEO)は3,000億円かけてサンフランシスコにポーンとめちゃめちゃでかい病院を作ったんですよ。あとはオラクルが最近高校を作っていて、スタンフォードと提携したサイエンススクールを学費無料でオープンさせます。

長南 それは巡り巡って自分に返ってくるからやっているのか、それとも自分が受けたから返すのかで言うと、どちらなんでしょうか。

宮田 自分が受けたから返すんだと思います。基本的にはペイフォワードなんです。

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