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INTERVIEWS WITH INVESTORS

(2015/11 取材)

EXITは1つの経営課題として認識してもらう

長南 クロージングの時にM&Aやファンド終了で揉めたケースはありますか。なければ、揉めない理由や手順をお聞かせいただきたいです。

中垣 「VCにとってのEXIT」と「会社にとってのEXIT」は違う、ということがあると思います。上場したとしても会社はずっと続くので。ただ、VCにとってのEXITもその資金を活用いただく以上、認識していただく必要があるので、何年後にファンドの期限というイベントが来ざるを得ない、と時間軸で説明をしておいて、それが1〜2年後に近づいてくると経営課題として考えます。事業とは異なることで時間を割いて申し訳ないと思いながらも、ちゃんと役員会の中で言っていくことになりますね。逆に言うと、「あの時の投資で今があるんだ」って思ってもらって、1年後なりにどういう決着をつけるかというプロセスを経ていると、最後は最大限お互い努力できれば、どういう結果になったとしても「でも、そうだよね」っていう。

長南 ただ、日本では会社を子供のように思うとか、粘って粘ってやっていくのが美徳だとか、そういう風潮が未だにあって、割り切り感のある経営者が評価されにくい感じがします。個人的にはそういう会社やモノを大事にする人は好きなのですが(笑)頭では分かっていても感情的に揉めるケースも多いのかな、と思っていますが、いかがですか。

中垣 そうならないように投資家として努力はしますが、そこまでの頑張りのまま一緒にやっていこう、みたいなウエットな部分もあると思っています。望まない形で会社を売られてしまい、ハッピーじゃない社員っていくらでもいるだろうけど、これも日本的な良さと悪さがありますよね。オーナーシップを起業家が持っているところが日本の分かりやすさであり、良いところ。その人って逃げないし、人生を賭けて破産寸前になりながらも会社を守るじゃないですか。ただ、そういう人が「会社を売っちゃいました」って言うとまさに青天の霹靂で、気がついたらよく分からない会社の社員になって給料も下がっているなんてことも起こり得ますよね。シリコンバレーの起業家は投資家的センスが強いんだろうなと思います。自分のオーナーシップが30%から15%に下がっても、会社の価値が上がれば最終的には自分のリターンも増えるとか、自分だと成長の限界が来るかもしれないけど、あの人がCEOになればEXITできる可能性が高まるとか思うと、ある程度VCに促されると社長の座を譲るケースが多くて。「後は任せた」という感じです。

投資家インタビュー Vol.9 DRAPER NEXUS VENTURES中垣徹二郎氏 EXITは1つの経営課題として認識してもらう

長南 若干マネーゲーム的ですね。そういう方って何回も起業されますよね。

中垣 再び起業する人が多いです。今回はここまでしかできなかったけど、その10%なり15%なりのゲインで何年後かに再びチャレンジして「今度は自分でやり切るぞ!」みたいな。反対に、「やれることはあるし、会社もプロダクトも好きだし、営業部に残してください」って残る人もいるんですよ。どっちが良い悪いでなく、アメリカの場合、特にVCが入るタイプの会社はインセンティブ設計をすごく意識していて、ストック・オプションもしくは現株に関しても階層に応じてきっちり配分を考えて、M&Aされることに対して主要な人たちには何らかの形で「人参がぶら下がっている」という感じですね。

長南 それはプロジェクトになっているのでしょうか。

中垣 そうですね。向こうのメンバーと話しているとよく聞くのが、シリコンバレー自体が一つの大きな会社で、その中にGoogle事業部とFacebook事業部とApple事業部、それから新興の事業部がある、と。5年ごとにどこが一番面白くて、かつ自分を高く売れるかで動いているところがあります。だからこそ、スタートアップ側も資本構成を含めて設計していると思いますね。

長南 そうすると、日本で投資される際も「5年後にはこういうイベントがあります」と予め伝えているのでしょうか。ファンドの期限は契約書に書くので当然分かりますが、その際に何が起こるかまで想像できない経営者も少なくないですよね。

中垣 僕が話す相手は株を沢山持っていらっしゃる経営者がメインで、経済的な意味において、M&Aの機会があるなら売る理由は確かにあります。ただ、日本はまだまだ買い手がいないので、それよりもまずは「僕らのファンドの期限はあと何年です」と。多少バッファーを設けても、「ここまでに決着を着ける前提で走りましょう」ということはものすごく念を押しますね。

長南 1年目に何をして2年目に何をして、と期限をきちんと設けて、それを達成していくために話し合う、と。

中垣 そうそう。途中で予定がスライドしてしまっても、「でも、ここまでには何とかしなくちゃいけないですよね」って確認し合うことが重要です。そこで会社を売ってくれというわけではなく、社長の頭の中に会社の中長期のタイムラインを入れておいてもらわないと、僕らみたいなお金って利用しようがないと思います。他のVCが入る時にも、ファンドの期限は確認しておくように絶対に言います。たまにありますからね、「上場まで5年かかります。3年後にファンドの期限が切れますが、延長できるかもしれないので・・・」というのが。「上場より早えじゃん!」って(笑)

長南 投資段階から問題がありすぎますよね、それ。VCの担当者に問題があるような気がしますけど(笑)今、ファンド間のセカンダリー売買はやられていないですよね。

中垣 自社のファンド間での売買は中々難しい。ファンドの延長はできますけど、ファンド間売買はLPに対して一番説明しづらいです。売却した後に潰れてしまう場合もあるくらい不安定なので、やっぱり難しいですよね。だから本当、第三者に売るしかないです。

長南 そういった場合、たとえば、経営者側が見つけてきた会社は低い価格でもやさしい社風で、自分で見つけた会社は高い価格。経営者としては「従業員のことを考えてやさしい方に売りたいです」と言った場合、リターンを考えたら高い方だとは思うのですが、どうしますか。

中垣 悩ましいですよね。具体的にそうなったケースはありませんが、「そうは言っても・・・」って交渉しに行くと思います。

長南 それは値段を交渉しに行くのですか。

中垣 はい。ただ、20年近くこの仕事をやらせていただいていますが、狭い世界なのでやっぱりレピュテーションも大事です。流石に何倍も違っていたら僕もブレると思いますけど、それがほんの少しの差なら、「これはレピュテーションリスクを取らない方がいいんじゃない?」って説明してメンバーで決めるかなぁ。

長南 今後ファンドに投資するLPのためにも、レピュテーションリスクを取らない方が総合的にメリットがあるだろう、ということでしょうか。

中垣 その考慮はすると思います。もしかすると経営者の見つけてきた方が良い会社かもしれないので。ただ、僕が見つけてきた会社が悪い会社かどうかもちゃんと判断してもらわないといけないですよね。それも踏まえて粘るとは思います。

長南 そうやって会社を見つけてくるには結構時間を使われますか。

中垣 うーん。以前、投資先の企業がM&Aされたのですが、経営者側と投資家側で「いつまでに上場を目指そう、そうでない場合はどうしよう」っていう話が経営課題としてあって、「もし一緒になるとしたら、どこが一番相応しいか」を実際にリストアップしたんです。社長を含め、役員会の中では完全にオープンでやりました。この人とあの人っていう風にルートを繋げて、提携の話から始まって最終的にはM&Aで決定したんです。1つの重要なプロジェクトとして走ったので、半年がかりで経営陣皆でやりました。

長南 日本はアメリカよりも社長が退任する場合は株は全部置いていけ、という風潮が強そうな気がしますが、そこはどう感じられますか。

中垣 途中退任って難しいですよね。ただ、途中退任でも一定の成果を残した方には多少は報いてあげたい気持ちもあります。アメリカの場合はべスティングと言って、例えば、4年を一区切りにして1年いたら25%置いていって、という形の契約を必ず締結しているんです。目安としては分かりやすい気がしますよね。最近、日本でも創業株主間契約が推奨されてきていますけど、全部その通りにやらなくても、帰る場所としてそういうものを結ぶことは良いと思いますね。そうじゃないと揉めるケースが本当に多いので。

投資家インタビュー Vol.9 DRAPER NEXUS VENTURES中垣徹二郎氏 EXITは1つの経営課題として認識してもらう

長南 創業株主間契約って今でこそ一般的になりましたけど、昔は全然でしたよね。

中垣 そうなんですよ。僕らが投資をする時にはもう会社は存在しているので、投資をする際にその契約を結ぼうというのもまた難しいんですよね。

長南 一発目にしか結べなくて、後はもうその契約に従うしかないですからね。ただ、アメリカはA,Bとステージを上がるごとに組み直すと言いますよね。

中垣 それはかなりありますね。構造的に赤字の会社が多く、資金調達をし続けないと紙切れになってしまうので。

長南 ダウンラウンドではないですが、突っ込めない会社が多いですよね。アメリカの契約だと失敗した時のことをちゃんと言葉にするのに対して、日本は言霊というか、「そうすると本当になってしまう」って嫌うじゃないですか。その辺りも感慨深いですよね。

中垣 投資契約を書かせていただく時も、失敗したら買取っていうのは絶対だめだと思うんです。ルール違反の買取で損害賠償を請求できるなんて当たり前だと思うのですが、それさえも書いたら驚かれる方が稀にいます。だから、こういうことを“したら”ですからね、と説明して(笑)

長南 日本人は書いてあると「するのか?」と不安にはなりますよね。それで書かないから、ぼやんとした感じになってトラブルが起こるような気がしているのですが。

中垣 そこは面白くて、アメリカと日本の逆の部分かもしれません。ただ、同じ契約でもNDAに関しては、これまた状況が違います。シリコンバレーだと、VCとスタートアップの間でNDAはほぼ結ばないんです。日本は結ばなくても守りますって感じがするけど、実際は何でもかんでも結ぶじゃないですか。しかも、接触していることすら公表できないようなNDAを。そうなると、お客さんの紹介を頼まれても「どこにも持っていけません」ってなるので、僕は拒否することが多いですね。

長南 「どういう関係ですか?」ってなりますからね(笑)

中垣 情報の提供方法が会社にとって利益か不利益かが問題であって、利益になることは大いにやっていくことが僕らの仕事のはずなのに、それもできないようなNDAが多いんですよね。VCは役員になって利益相反をできないようにすることで、投資先の会社にとって利益か不利益かを判断しながら行動すべきなはずなのですが。「これだけは結んで、どうしても!」っていう場合は、あまりに交渉時間がかかって結んでしまったこともありますが、アメリカのメンバーからとても不思議がられます(笑)

長南 弁護士の方が入るとそうなるんですかね。

中垣 日本とアメリカ、どちらが契約社会かたまに分からなくなります(笑)

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