(2015/11 取材)
長南 逆に失敗はありますか。後悔しない失敗ではなく、後悔した失敗。
中垣 色々ありますけど、ものすごい後悔は少ないかな。
長南 それはやっぱり吟味しているからなのでしょうか。
中垣 投資した後にしつこく付き合うからじゃないでしょうか。始めは関係性が薄かった人でも、悪くなった時に深く突っ込むと一緒に課題を解決しようとしますよね。そうやっている内に「やることやったかな」と覚えているのかもしれません。
長南 アメリカのVCは良い会社に時間をかけて、悪い会社には時間をかけないと聞きますが、そこはどう思いますか。
中垣 究極的にはそうせざるを得ないところもあると思います。どんなに頑張ってもファンドへのリターンが少なくて、もっと大きなリターンを得られるかもしれない別の会社をやらないのも、それはそれでよろしくないと思うので。もう10年以上前ですが、出版に関わるビジネスに投資をしたことがあって、自分が全く業界のルールを分かっていなかったんですよ。しかも、多くのグループ会社があったりしてキャッシュフローが読めなくて。最後はもうお金が回らなくて、タダ同然で買ってもらいました。社長ともちゃんとコミュニケーション取れているし、データも全部見ているけど、非常に分かりにくくて。投資したことへの後悔というか、あまりに分からなさすぎることはやっちゃいけないな、と思いました。
長南 そこはどうして投資しようと思ったのですか。
中垣 すごく面白かったんですよ。出版とライツビジネスで色々な展開をしていて。ストーリーとパッと見の数字が良かったので、条件との見合いとしては充分行けるな、と思って投資したんです。
長南 投資の相談が来てから実行まで比較的短かったんですね。
中垣 ただ、しばらく経ってから、なんとなくすっきりしないことが続いて。定性的な意味でのマイルストーンは達成していても、数字が全然追いついてこなかったんです。新規事業は進んでいたのに本業の出版業があまり上手くいかなくなってきて、悪循環に入ってだめになってしまった感じです。しかも、Amazonが伸びてきて本屋が非常に厳しくなった時期じゃないですか。そういう意味では、自分の中で一定の理解度を高めないで投資をするっていうのは本当にやってはいけないと反省しました。
長南 JAICにいた時とDRAPERとして独立してからでは、ベンチャーキャピタリストとして考え方に変化はありましたか。
中垣 結果を出すことに対する意識は強まった気がします。当然これからも失敗するでしょうけど、何で失敗したのか、それを次にどう活かすのか、より強く考えないといけないなって思っています。
長南 そういうプレッシャーで動きが変わったということでしょうか。
中垣 交渉力はついていると思います。また、プレッシャーは大きくなったものの、それで過度に慎重になっているとは思いません。独立した直後にある会社の投資が待っていて、既に1億円投資した会社に追加で2億円出しました。僕が今まで投資してきた中でも、投資金額がかなり大きい会社となりました。
長南 どこが魅力的だったのですか。
中垣 チームもビジネスも両方むちゃくちゃ良いんですよ(笑)
長南 ベンチャーにはCFOがいないケースが多いと思いますが、そこはどのように見られていますか。
中垣 CFOがいなくても、キャッシュフローが読みやすい会社だと大きな問題はないですね。プロダクトができて売上が上がりだすと、たとえ黒字でなくてもキャッシュフロー上は運転資金が発生しにくい構造の会社ってありますよね。更にバーンレートも普通なら、この金額を投資すれば1年は戦えて次のステージまで行けるだろうって計算しやすい。上場準備が始まっていないのであれば、CFO不在でも投資は実行可能です。でも、運転資金が発生する会社、資金のやり繰りのある会社でCFO、少なくとも資金繰りを管理できる人がいないと、慎重にならざるを得ないと思います。
長南 アーリーステージだと経営者との交渉が多いと思いますが、CFOが入ってきたらCFOとやり始めますよね。そこの力量はちゃんと見ますか。
中垣 後から入る場合はすごく見ます。採用の際にミーティングに同席させていただいたりします。
長南 ベンチャーにとってのCFOはどういう役割だと見ていますか。いることによってバリエーションが上がる可能性があるのか、それとも関係ないのか。
中垣 日本ではかなり変わると思いますね。アメリカのCFOって大きい資金調達をするまで存在しないことが多いんです。
長南 それは経営者がファイナンス、人材募集、ビジネスデベロップメントなど、全てをある程度の企業規模まで兼任するということでしょうか。
中垣 アメリカは、ずっとお金を出し続ける財布の大きいVCがいることが資金調達の最大のポイントになります。日本の場合はそこまで同じ投資家が出し続けることって少ないですよね。そうすると、会社には新規で出資してくれるVCを探し続けることが重要で、そこがCFOのスタートアップでの役割だと思います。あとは、日本はIPOに向けた準備も早いですよね。VCが投資してから平均3〜4年で上場するとして、少なくとも1年後にはCFOがいないと上場準備が始められないということもありますし。CFOがいるから増資できているケースも多く、結局それを見越してCFOが早い段階で入ってくることが多いのだと。
長南 ベンチャーラウンドだと、経営者が引っ張っていくという人とCFOがいた方が良いと言う人、両方いるんですよね。
中垣 はい。ただ、シリーズAの時はやっぱり社長が語るのが多いとは思います。
長南 数字が固まったら引っ張れる人がいた方が良い、と。
中垣 その段階まで来たら「社長は決めのところだけ来てください」くらいで良いと思いますけど、初めは社長だと思います。アメリカの場合は分かりやすくシリーズA,Bまで社長が資金を引っ張れるかどうかに尽きる。Aまでは引っ張れるけどBは引っ張れない人も当然います。ざっくり言うと、Aは調達額5億〜10億円、Bは調達額10億〜20億円で、会社としても求められるレベルが変わるので、そこのステージに上がれない社長ってやっぱりいるんですよね。ステージが変わっていく中でCEOが変わるケースがかなり多いです。
長南 CEOは変わっても、株主としては残るんですよね。
中垣 そうですね。普通株はちゃんと持っていながら、インセンティブであるSOの大部分は次のCEOに渡します。アメリカはセカンダリー市場が発達していることもあり、創業者が会社を離れてEXIT前に売却してしまうことも多いですが。CFOの力だけで変わるところも一部あるとは思いますけど、少なくともCEOはものすごく重要だということが表れています。