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INTERVIEWS WITH INVESTORS

(2015/11 取材)

経営者のバックグラウンドを聞いてファンになる

長南 人やビジネスなど、投資を決めるには色々な要素があると思いますが、中垣さんはどこを大事にされていますか。

中垣 僕は最後は人ですね。初めて会った時に「あ、投資するのかな」って思った場合、その直感はわりと当たったりします。投資検討のプロセスにおいては、とことん駄目なところを洗い出して冷静に検討した後に「やっぱり投資したい」って思えるところに投資します。

長南 絶対にだめだというのはどういう人ですか。

中垣 信用できない人は無理です。約束を守ることは鉄則で、先入観として嘘をつきそうな人は腰が引けます。投資先の起業家は一緒に仕事をしていく方だと思っているので。

長南 とても魅力的なビジネスでおそらく成功するだろう、でも人としてちょっと信用が置けないな、となった場合には投資しないのでしょうか。

中垣 そうですね。それで失敗したと言うか、リターンを逃したこともなくはないですけど、自分の中でその基準を変えてしまうと全てが崩れそうで。僕はそこまで器用じゃないから、合う人と仕事をしていけば良いと今は強く思っています。

長南 人間関係を構築する時はどういうコミュニケーションを取られますか。昼間にメンタリングしたり、夜に一緒に飲みに行ったり、人となりを知るには色々あると思うのですが。

中垣 昔はそうでもなかったんですが、最近は飲みにも行っています。機会があれば、投資前にも。リラックスしながら「何でこの事業をやっているのか?」「何で自分がこれをやった方が良いと思っているのか?」「これまでどんな人生を歩んできたのか?」といったバックグラウンドを聞かせてもらうのが好きなので。その中で経営者のファンになっていることが多いです。

長南 感情が移るわけではなく、「応援してあげたい」という想いなのですね。でも、ビジネスとして成り立たなさそうなものは、共感しても投資はしないのでしょうか。

中垣 それはあります。「良い人だな」とは思うんですけどね(笑)やっぱり経営者が主役で僕らは脇役なので、僕自身が付加価値を出せなくても構わないんですけど、主役である経営者に成功できるイメージが湧かないと。もちろん、少しでも自分が後押しできるような何かを持っている事業の方が応援し甲斐があるし、突っ込めるというのもあります。そこで一つでも二つでも気付きを経営者に与えられたら、それは何よりもプラスだと思っているので、その為には自分がちょっとでも分かる業界だと応援しやすいですね。だからこそ、事業計画に色々と突っ込みを入れて、それに対して経営者が何て答えるかというプロセスの中で「なるほど!」と理解が高まっていくのが好きです。

投資家インタビュー Vol.9 DRAPER NEXUS VENTURES中垣徹二郎氏 経営者のバックグラウンドを聞いてファンになる

長南 ステージによっても変わるとは思いますが、投資した後のミーティングはどのくらいの頻度で行いますか。

中垣 リードの投資先には1週間に一度は行っています。今は日本にも社内のメンバーができてきたので自分のオフィスにいることも増えましたけど、最初の2年間は一人でオフィスにいても仕方がないので、投資先の皆さんのところに机をもらっていました。で、そこで仕事していました。

長南 こういったところで一人でパソコンに向かっているのも寂しいですしね(笑)

中垣 そうそう。精神衛生上も良いし、会社の空気を吸わせてもらっていると「あれ、なんか雰囲気がいつもと違うな」とか、社長や役員の方がどういう風に社員の方々とコミュニケーションを取っているかとかが見えて。だからどうだということではなく、そういうところをまず知るのって重要だと思うんですよね。今もちょこちょこ投資先のオフィスにお邪魔しています。

共感と、お手伝いできたかなという手触り感

長南 中垣さんは打率が高いとお伺いしていますが(笑)やはり札幌の人間関係をコツコツ構築していって、経営指標もロジカルにチェックしていたという経験が活きているのでしょうか。

中垣 どうなんでしょうか。今まで自分が担当、もしくは自分や自分のチームが投資した案件って20年間で41社しかなくて。途中経過のものもいくつかありますけど、上場が12社、前向きなM&Aが3社です。明確な倒産は少なくて、最後にいくばくかで売られているケースが多いです。DRAPERのファンドに移ってからの投資先は、これから楽しみな会社がもちろん残っています。

長南 JAICの時とDRAPERの時で、何件対何件くらいですか。

中垣 DRAPERになってからはまだ5社です。残りの36社は全部JAICですね。

長南 DRAPERの方も結果がある程度出始めていますか。

中垣 1社上場して、1社M&Aされて、今は3社を支援中。これからどんどん投資をしていこうというタイミングです。

長南 今までの、投資して良かったと思えた会社はどのような雰囲気でしたか。

中垣 色々ありますが、一つ印象的だったのが、先ほども話した2000年のマンション一室の時に投資した会社の上場は嬉しかったです。社員が0名だった会社で、初めて僕が増資をした時に「これでアルバイトを社員にしてあげられる」って社長が言ったことを覚えています。そこから上場するまでに大きくなって、どちらかと言うと地道に成長されている会社ですけど、この数年も増収増益をずっと続けています。

長南 そのアルバイトの人はまだ残っているのでしょうか(笑)

中垣 今も残っている人もいます。今も経営陣の皆さんとコミュニケーションを取っていますが、ほとんど売上がなかった会社があそこまで行ったという軌跡をずっと見せてもらえたのは気持ち良かったですね。株価だけを語っても仕方がないですけど、キャピタルゲインも大きかったですし。上場したのがライブドアショックの影響を受けるギリギリ前のタイミングで、3日間ストップ高で大きなリターンも出ました。3回の投資をした先で、トータルで30倍くらいだったかと。

長南 売りのルールはその場を見ながらだと思うのですが、公募売り出しのタイミングで売ってしまうパターン、初値で売るパターン、ロックアップの半年が明けるのを待ってから売るパターン、どれが多いですか。

中垣 あの時は公募では売らないで済みましたので、初値である程度売却して残りは長期的に持ってくれましたね。当時のJAICには上場後の売却専門のチームがあって、彼らはアカウンタビリティを一番重要視していました。全部を一瞬で売ってしまうと、値段が上下した際に投資家に説明がつきにくい、と。あとは、自分たちをきっかけに値段を崩したくないっていう自負もあって、本則としてこの日数でこれくらいの株価、というルールを持っていました。JAICの投資先はほとんどが上場してからも数年間は、ほんの数株ですが残してくれていて、上場後も株主総会を見に行けたのは良かったですね。投資先の社長も喜んでくれていました。

長南 DRAPERに移ってからはそういった売却に関するルールは何かありますか。

中垣 自分がサラリーマンでなくなったからできているんだと思いますが、少し今までと違うこともしています。VCって上場までの指南役としての側面もありますよね。ただ、上場と共に株式を売らなければならないから、インサイダーの問題もあって投資先と距離を微妙にとらなければいけないという変な関係なんですよ。とある投資先に関しては、既に上場しているのですが、僕が役員を勤めてファンドとしても一部の株式を保有し続けています。アメリカだと、VCは良い会社に関しては上場後も役員であり続けています。これはなぜかと言うと、今後の投資先の潜在的な買い手としても重要だし、自分がその業界の知見を持つためにも最高の場なんです。上場企業の役員であることや優良企業の経営に携わり続けることで、他のスタートアップに僕が提供できることも増えるし、その上場企業が上場後に投資や買収を検討していく時の見方など、その企業にもアドバイスできることがあるし。

長南 インサイダー取引規制との絡みで売却のタイミングは難しいですね(笑)

中垣 非常に微妙ですけど、経営者でさえ株式の売却はできるので、売れないわけはないですし、上場の指南役であるべきVCが上場後の世界を知らないというのは何とも。それがブツッと切れるからこそ、「上場ゴール」と言われてしまう部分もあると思っていまして。

長南 日本だと、IPO前はとても仲良かったVCの方が上場申請直前くらいから関係性を敢えて断ち切っていく背景には、何か理由があると思われますか。

中垣 証券会社もインサイダー取引にデリケートになるのが一つ目。VCのキャピタリストがサラリーマンの場合が多く、上場企業の役員というリスクを負わせられないのが二つ目。あとは、当然売りがもっと難しくなるし、上場から1ヶ月の株価は異常に高くなる傾向があるので、そこを売り逃したくないというのがあります。LPに対しても役員をやらない方が説明がつきやすいし、相対的にデメリットが多くなるのだと思います。なので、我々も無作為に上場企業の役員になるのは相応しいと思えませんが、ファンドの期間、投資額の大きさ、期待株価、投資先との関係等々も考慮して、手がけていければと。

長南 では、中垣さんのベンチャーキャピタリストとしての成功はどのような定義ですか。

中垣 僕の中では、共感と、やっぱり投資家なので充分なリターンを貰えること。自分が作ったという気持ちは少しもないんですけど、多少は自分もお手伝いできたかな、と思える手触り感みたいなものも重要だと思います。

投資家インタビュー Vol.9 DRAPER NEXUS VENTURES中垣徹二郎氏

中垣 徹二郎TETSU NAKAGAKI

DRAPER NEXUS VENTURES マネージングディレクター

早稲田大学卒業後、日本アジア投資株式会社へ入社。20年弱の間一貫してVC投資現場に携わり続け、国内アーリーステージのスタートアップを中心に41社に投資し、12社の上場、3社のM&Aを実現。現在はシリコンバレーと日本を繋ぐクロスボーダーのVCファンドDRAPER NEXUS VENTURESを設立し、日本側の代表としてVC投資業務に従事。日本とシリコンバレーを中心に世界中に広がるネットワークを通じて投資先企業の育成支援を行っている。DRAPER NEXUS VENTURES マネージングディレクター。Kauffman Fellow。

投資家インタビュー Vol.9 DRAPER NEXUS VENTURES中垣徹二郎氏

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