(2015/10 取材)
長南 これも答えにくい質問だと思いますが、ベンチャーキャピタリストの本分は何でしょうか。ここまでの話でも大体出てきていると思うんですけど。
河野 やっぱり産業を生み出す職業、ビジネスを作るビジネスっていうのは格好良く言えばあると思いますけど、僕個人としては、惚れた起業家の夢の実現を一番近くでサポートできるっていうのは、これほど幸せな仕事ってないなって気がします。
長南 起業家を応援する、っていうのが大きいんですね。
河野 結果的に僕の場合は、さっきの自分の子どもって話で考えた時に、三男坊だけが上手くいってくれれば良いというわけではないじゃないですか。こいつは勉強ができるとか、こいつは野球が得意だとか、こいつは絵が上手いとか、それぞれの描く未来があって、そのそれぞれの夢の実現を親としては願うわけですよね。だから、そういう意味では、そういう夢がいくつもあるってすごく幸せだなって思うわけですよ。
長南 で、その先に人の笑顔がいっぱいあるってことですよね。
河野 まぁ、そうですね。人の笑顔とか、気恥ずかしい感じもありますけど。やっぱりその会社がある世の中とない世の中の差異を考えた時に、この会社が存在していたことによって人類だったり人間だったりが良かったねとなるとか、よく最近投資先でも「地球の未来」とか「人類の進化」とか、キーワードが大きくなっているから。
長南 それ、宇宙に行かれるんですか、最後(笑)
河野 いや、でも、そういう視座の高さって結構大事だな、と思いますよ。ただ単にでかいこと言えってことじゃないんですけど、どんどんどんどん事業やっていく中で視座が上がっていって、当初見ていた解決っていうところのボリュームがより大きくなっていくっていうのはあると思います。
長南 もし一人でVCを仮にやりますよって言ったら、投資額の限界、一人で見切れる範囲はどのくらいでしょうか。
河野 金額ではないんじゃないですか。でも件数でもない気がしてきていて。だって、大体1パートナー10社に注力っていうのが、ファンドレイズする時の目線感ですよね。
長南 10億円って言う人もいるし、20億円って言う人もいます。
河野 でも、僕で言うと一人で19社33億円見ていますから。厳密には、19社投資して、既にEXITした会社を除くと16社。もう、僕7社目くらいの投資から「いやもう、次無理、次無理」ってずっと言ってますけどね。無理無理って言ってストレッチかけてやっていると、出来るようになるんですよね。ただ、やっぱり月の第3週、第4週目くらいのミーティングの埋まり具合とか、その調整の難易度の上がり具合とか見ると、もうそろそろきついなっていうのは思うし、やっぱりアポの調整ミスとか、そういうのが出てきてしまって、結果的に投資先に迷惑かけているみたいなことが起きてしまうと、「あぁ、これ自分で認識していないけど、結構限界に来てるんだ」みたいなのは感じたりしますよね。あとは、自分の課題として、やっぱり自分一人でできることって、事業含めて限界があるわけじゃないですか。だからどんどんどんどん若い投資家を増やしていくっていうことが次のミッションとしてあるな、と思っています。10社20億円みたいなことを1つの基準値として見た場合に、1,000人の起業家を見るんだったら100人必要なわけですよね。10,000人に増やそうと思ったら1,000人必要なわけじゃないですか。逆に、起業家はどんどん増えていってると思うんですけど、やっぱりそれを支えられる投資家の絶対数が少ないと思うんですよ。 だから、やっぱり僕らがリターンを出して格好良い職業になり、優秀な人材が、想いのある人間がベンチャーキャピタリストっていう道も良いなっていう風に志してくれる世の中を作っていかないと難しいんじゃないかな、と思っていて。
長南 だから、身なりもきちんとされているんですか。
河野 それもありますよね。だって、例えば、ラグビーの五郎丸さんが注目されるのも、ラグビーがすごいっていうのもあるけど、格好良いからじゃないですか。そういうのあると思うんですよ。僕学生の頃に、何で商社マンとか戦略的コンサルティングファームとかだったかって言うと、格好良いからですよ。だから、動機って、あまり高尚なものって最初は必要ないんじゃないかと思っていて。女にモテたいとか、そんなんでも良いと思うんですよね。例えば、起業もね、「本当高い志を持ってやらなきゃだめだ」って言う人もいれば、逆に、「あいつでできるんだったら俺にもできるんじゃね?」っていうところから実はものすごいスーパースターが生まれたりするってこともあるわけであって。だから、まずは挑戦者のボリュームを増やすっていうことが大事で、「いや、俺なんか無理無理」って言っていても仕方がないわけじゃないですか。
長南 なるほど。最初の動機が仮に研ぎ澄まされたものでも全く問題ないですからね。
河野 だから、投資家の数は絶対的に少ない。やっぱり若い投資家の台頭を応援したいなって気持ちもあります。「事業したことないくせに」と言う人もいるとは思いますよ。でも、それを批判覚悟でやっているわけじゃないですか応援したいな、と思いますよね。ただ、その応援の仕方って難しいな、と思います。手取り足取り教えることが良いことなのか、背中で語ることが良いことなのか。でもやっぱり一緒に案件をやるってことだと思いますよ。中々難しいんですよね、ベンチャーキャピタリスト育てるって。僕、別に誰かに何かを教えてもらった記憶もそんなにないので、やっぱり自分で盗んでいくものだと思うんですよね。
長南 最後に、起業家へのメッセージをお願いします。
河野 自分の寝食を忘れて取り組めるテーマ、事業に対して、脇目も振らず頑張れ、ってだけですね。投資家から資金調達するためにどうとかではなく、前向いてお客の方を向いて愚直に真面目にやっていれば、こちら側から見つけますから。何でもかんでも誰かに聞いたり調べたりできる時代だからこそ、自分の殻に閉じこもって考えることが大事なんじゃないかなって思うことは結構あって、起業家さんも「河野さんに投資してもらうためにはどうしたらいいですかね?」とか「どういうKPIを作れば投資してくれますか?」とか、そういう解を求めて欲しくはないと思います。そういう人に色々と聞ける環境にあるから聞いているかもしれないけど、ちゃんと自分の中の自分とちゃんと向き合ってしっかり考えた方が良いんじゃないの、やるべきことをちゃんとやれ、と。だって、お金の方が増やしてくれる相手を求めているわけだから。
長南 それが良ければ、こちらから投資をさせてくれ、となりますものね。
河野 でも、さっき自分で言ったのも変ですけど、ちゃんと本当の意味で自分の力以外の力を借りてやろうとした場合には、誰とやる、誰と組むべきかっていうのはやっぱりちゃんと考えるべきっていうのは、矛盾していることを二つ言っているんですけど。
長南 言っている意味は多分同じなんでしょうね。今日は長い時間ありがとうございました。
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新卒での株式会社ジャフコでの涙の採用からのベンチャーキャピタリストへの道。そして、ベンチャーキャピタリストしての基礎をしっかりと叩き込まれてからのITVきってのベンチャーキャピタリストへ。初めてお会いしたのは、もう5年以上も前になりますが、目を中々合わせてくれなかった思い出があります。心の信頼関係の構築に最も時間と想いをかけるその姿はビジネスとしてではなく、やはり人間同士の心の触れ合いが最も重要なんだということを深く感じさせられます。自分の達成感やプライドだけで仕事するのではなく、ベンチャー企業にとって最適なサポートは何であるのかを突き詰める姿は今後さらに加速すると思いました。今回のインタビューで河野氏の仁義を大事にする男として、一人の人間としての魅力を少しでも伝えることができたらと思います。 本インタビューにご興味を持たれ、河野純一郎氏とのコンタクトをご希望の方は、下記からお問い合わせください。
河野 純一郎氏KONO JUNICHIRO
伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社 パートナー
2008年4月 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社入社。 2013年4月 同社パートナー就任。 主な投資先は、VASILY、クラウドワークス、スポットライト、Fringe81、ラクスル、メルカリ、FiNC、ユーザベース、フロムスクラッチなど。 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ入社以前は、ベンチャーキャピタル最大手の株式会社ジャフコにて、日本国内のベンチャー企業への投資活動及びファンドレイズ業務に従事。
*本記事の内容は2015年10月取材時点のものに基づきます。所属、価格、企業名など時期により異なることがありますので、予めご了承ください。