(2015/10 取材)
長南 起業家とVC、ベンチャーキャピタリストの関係性というのは、共同経営、先導者、伴走者など、どのようなイメージですか。
河野 伴走者みたいな感じで、伴走者ではないと思っています。未来は同じ方向を向いているんだけど、同じ車とか、隣で走っているわけではないんですよね。もうちょっと後ろに引いて全体感を見ながら、「こっち行ったらだめだぞ」とか「こっち行ったらこういう罠があるぞ」ということを見出し、何かこうアメフトのコーチみたいな感じですかね。ナビゲーターなのか、監督でもないんですよね。この路面の状態だと早くタイヤを換えた方が良いって言うピットクルーとか。
長南 それでいて、もうちょっと俯瞰しても見ている感じ。
河野 そうそう。一言だと表現しにくいなぁと思うんですよね。先導するわけでもないし、伴走しているんですけど、ちょっと違う。F1に近いのかなぁ。結局何でもやるわけですよ。タイヤ交換しろって言ったらタイヤ交換するし、ガソリン入れろって言ったらガソリン入れるし、ガソリンがないって言ったらガソリンを調達しに行くし。だから、雑用係に近いわけだけど。
長南 全体を見るけど、雑用係もやるっていう。
河野 何とも形容しがたいですよね。ピットクルーはあれ、複数人でやるじゃないですか。
長南 それを全部やるんですよね、一人で。
河野 うん。でも、今って結局シンジケーションを組んで投資することが多いから。
長南 そうですね。一人で全部取りに行くことはあまりやらないというか。
河野 あまりやらないですね。この間の投資は単独でいきましたけど。
長南 単独で投資したのは他のVCの方が理解できないだろう、という予想からですか。
河野 そうです。他を巻き込んだ時点でおそらくファイナンスの時間軸が延びるだろうな、と思って。ただ、それも単独にこだわっているわけではなくて、今のこの会社の開発ステージ、プロダクト開発段階でファイナンスに時間をかけるっていうのは逆効果だと思った。それで「僕が単独で入った方が良い」って言った。で、その前投資した会社で言うと、「2社で入った方が良い、別のキャピタリストを入れた方が良い」と言っていたり。だから、結構テーラーメイドというか、その会社のステージ、事業の状況、ファイナンスの実現可能性とか、投資家の状況、ファンドレイジング中の状況とかを見て、その時の最適解を探るって感じですかね。
長南 起業家と1,500人に会って32社に投資をして、投資の成功確率はこれぐらい、というのはありますか。
河野 何を成功と定義するかにもよりますよね。例えば、上場してそれなりのリターンが出ました、というのはある意味では成功だと思うわけですよ。ただ、僕からするとまだ全然終わっていなくて、やっぱりその会社が何十年後かに日本になくてはならない会社になって初めてあの投資は成功だったっていう風に誇れるんじゃないかなって思っています。投資先が上場する瞬間も、喜ばしいというよりは、「本当にこの上場というものを経てマーケットに送り出して良いのだろうか」という、緊張感とか責任感とかの方が重いです。すごく恐いですよ。それで株価が下がったら色々と言われてしまうわけですしね。だから、そういう意味では、いつまで経っても安心できない。
長南 まるで我が子のように。
河野 そう。やっぱりいつまで経っても自分の子は可愛い。起業家としては年上だし卓越している方もいるので、僕が言うのも大変失礼ですけれども、個人的な気持ちとしては、成人式を経てもいつまで経っても手のかかる子どもであり、手のかからない大人になったとしても心の中ではずっと気になっている存在ですね。
長南 言われるまでは何もやらないけど、助けを求めて来たら助けてあげる感じなんですかね。
河野 はい。そういう意味では、短期間でのM&Aでリターンが出たっていうものは成功事例ではあるんだけれども、僕からすると「いや、もっとやれただろう」と。君の能力をもってしたらっていう期待値が高かったって意味では、僕の中では別にそれほど成功と定義できるものでもないんですよね。
長南 成功の定義を何と考えますか。
河野 ベンチャーキャピタリストとしてだったならば非常に大きいリターンを、そして雇用だったりを生み出すっていうことですよね。個人としては、偉大な会社になってもらって、その成長の途上に自分が関与できたっていう自分の中での勲章みたいなものですよね。社会的に「あの人あの時に投資してたんだ」っていう評価をしてもらいたいわけではなくて、そういう会社の初期段階で色んな起業家が悩み、苦しむところを一緒になって乗り越えることができたっていうことで、ひとりでほくそ笑みたいだけです(笑)
長南 投資に失敗したけど後悔がない場合というか、成功したとは言わないけれど個人的には納得しているような事例ってありますか。
河野 ありますね。リターンで言うと損だけれども、思いっ切り難しい事業領域に全力でチャレンジしにいって、「ITVさんからお金入れてもらってここまでチャレンジできて、恩は返せなかったけれども、全額自分で立て替えてでもお返しする」と言って、最後の最後まで彼は逃げなかったわけですよ。僕らリスクマネーなわけだから、リスク取って承知の上でやっているから、全額個人で保証するなんていうのは別に望むところではない。でも、その案件はエクイティと社債で投資したんですけど、「社債は借りたお金なので、これだけは何としてでも絶対返ししたい」と言って、結局最後、ちゃんとMBOで社債部分は返ってきました。株は損したけれども、借金、社債は彼のポリシーとして返すっていうことで、彼は最後まで逃げなかった。だからもう本当に、もう本当よくやったね、と。だから、いつかまた一緒にやろうぜ、と。彼とはまた一緒にやりたいなとは思っているし、彼も「僕はね、絶対成功するから、また一緒に仕事しましょう」と。そういう気持ちが大事ですよね。だって、失敗したくて失敗したわけじゃないわけだし、全力でやった結果、タイミングだったりそういったものが備わらず、上手くいかなかったわけだから。だから、もう1回一緒にやりたいなって意味では納得しているというか。そもそもその会社も、投資をする時に「これで思いっきり上手くいかなくても、なんか納得いくよね」って思って投資したんですよ、最初から。
長南 その会社、よく投資委員会通りましたよね。
河野 それはもう多分、想いの強さですよ。もうこれだけはやらしてくれ、と。
長南 起業家から気持ちを受け取って、それを河野さんが社内で上手くちゃんと説明できたと。
河野 当時なんて事業が評価出来る状態ではなかった。だから、運が良かったと思いますね。そういうのが通る投資委員会のメンバーであったりとか。
長南 運って重要ですね。必然なのかもしれないけど。
河野 重要ですよ。ファンドを作ったばかりだから、ちょっとリスクのある投資もやっていこう!っていうタイミングだったりとか。そういう意味では、やっぱりそれって起業家が持っている引きの強さだと思うわけですよね。だって、別の投資先でも、全くVCの人なんて知らないっていう状態から、既存の株主から「お前みたいな変わった起業家に相性合う投資家は河野さんしかいないよ!」と言われたとかで。
長南 そういう意味では、やっぱり目利きがそこで1回入ってますよね。
河野 そうです。で、僕も「この人が投資している会社だったら変な人じゃないだろう」と思って会って、さらに、他にその起業家に合いそうなベンチャーキャピタリストを連れて来て。そのベンチャーキャピタリストも100億円超のファンドを作っていてお金も潤沢にあり、自分もゼネラルパートナーとしてちょうど決められる立場にいて。それで、僕を基点に繋がり、それが結果的にファイナンスになっているわけです。それってその起業家自身が持っていた運の強さであり引きの強さですよね。
河野 純一郎氏KONO JUNICHIRO
伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社 パートナー
2008年4月 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社入社。 2013年4月 同社パートナー就任。 主な投資先は、VASILY、クラウドワークス、スポットライト、Fringe81、ラクスル、メルカリ、FiNC、ユーザベース、フロムスクラッチなど。 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ入社以前は、ベンチャーキャピタル最大手の株式会社ジャフコにて、日本国内のベンチャー企業への投資活動及びファンドレイズ業務に従事。