(2015/10 取材)
長南 そう考えるとやっぱり人の繋がりから投資は決まりますか。ポッと会社のインフォメールに話が来て投資をするっていうのはあまりないと。
河野 数は少ないですよね。広く募集しているので、そういう意味では別に否定しているわけではないんですけど。やっぱり株主になってもらう、株主に招き入れる、ある意味血を分けるっていうことを考えた時に、誰に血を分けるかとか、兄弟の契りを交わすかとか、真剣に考えれば考えるほど、誰が良いかっていうのってもっと考えるべきだと思うんですよ。それをランダムにインフォメールに送るのではなく、真剣に自分が選ぶべきパートナーであるキャピタリストを考えてその特定ができるのであれば、どうやったらそこに辿り着けるのかっていう人脈を探すとか、やっぱりやらないとだめなんじゃないかなって思うわけですよね。逆にちゃんと調べてきてそれくらいしてきて欲しいと思います。
長南 何にもアテがない人ってどうすれば良いんですかね。
河野 何にもなくても、例えば今だったら、FacebookだったりTwitterだったり何かしらあったりするわけで。別に出待ちするでも良いし。
長南 今回のインタビューでその辺分かってもらえるといいですね。投資家の人となりを知ってもらって。
河野 やっぱり投資家の個性だったりとか、投資のポリシーだったりって今でこそ色々なイベントで投資家も登壇するようになってきて情報の非対称性は解消されつつありますけれど、そうは言ってもまだ潤沢ではないと思うので、起業家が投資家を選ぶに充分なキャピタリストの情報をどんどん出していった方が良いと思います。だって、僕らを評価するのは起業家ですから。やっぱり起業家であり、歴史ですよね。自分で評価するものではないので。だから、その意味ではよく「河野さんに投資してもらいたい」みたいなことで人づてではなくていきなり言ってくる起業家もいて、それはそれで嬉しいんですけれども、本当に僕がフィットしているかどうかっていうのは「僕が投資している起業家とかに話を聞いてみた方が良いんじゃないの」、と。
長南 だけど、「聞いてきました」って人とか、「今度紹介して」とかって人もいますよね。
河野 います。だから、「ベストである可能性はあるかもしれないけど、そうでないかもしれないよ」と。「フラットに色んな起業家、投資家と会ってみたら」というのは、結構言いますね。その上で選ばれたいじゃないですか。例えば「あの投資家は良くないよ」とか「いやいや、ちょっと早く契約結ぼうよ」などと言って情報を遮断した上で自分を選んでもらっても嬉しくないので、もしかしたら俺じゃない方が良いよね、っていう場合は、「これ多分、俺じゃないと思うよ」と言いますよ。結局は向こうも同じように思うみたいで。
長南 難しいと判断した投資案件はどのようにして断るんですか。
河野 すぐにお断りする場合もありますね。「正直、大変申し訳ないんですけど、何言ってるか全然分からなかったです」とか言ったこともありますし、「ちょっとやりたいことが散漫になっていて、何がしたいのかよく分からないです」とか「ちょっと僕の不勉強で、理解できないです」とか。そこから「キャッチアップさせてください」って言って検討することもあるけれども。
長南 それは箸にも棒にも引っかからない場合の断り方ですよね。
河野 そう。ただ、事業として難しそうな場合と、人として難しい場合と、両方あるわけ。でも、「お前ダメだよ」って断り方はできないじゃないですか。だから、そういう意味では一旦はちゃんと「検討します」と。検討の粒度の違いはありますよ、深さとか。でもやっぱり、一旦持ち帰って、落ち着いて考えますよね。ビジネスとしてどうかとか。だって、自分の先入観である可能性もあるわけで。
長南 で、自分からメールを出すんですか。
河野 どちらもありますね。自分から連絡して「やっぱり今回は難しいです」って話をする時もあるし、待つ場合もありますよね。それはもう一つ理由があって、やっぱり、自分の会社のファイナンスを受動的に待っていても決まらないじゃないですか。真剣味という意味ではね。「進捗どうですか?」とか、やっぱり真剣であればあるほど、やって欲しいなって気もします。話をしたから待っていれば良いってわけではないんじゃないかって思うので。
長南 じゃあ結構、しつこいくらいの方が良いという感じですか。しつこいことを焦っていると見る人もいるじゃないですか。そうでなくて、普通にお願いしてくるんだから、しつこく説明しようとちゃんと何度もコンタクト取った方が良いと。
河野 良いと思いますよ。だって、有望な投資家さんほど忙しいわけであり、多くの案件を検討しているわけであり、その中で優先度が多分あるはずなので、少しでもその優先度を上げてもらわないといつまで経っても順番が回ってこない可能性もあります。
長南 じゃあ、俺に会いたければ出待ちしろ、みたいな感じですか(笑)
河野 そこまでは言わないです(笑)でも、やっぱり真剣になれば、そういうのは行動に表れるんじゃないかなって思います。そこで難しいのが、しつこくされて良い人としつこくされて嫌な人もいるじゃないですか。だから、そこも含めて判断軸だと思いますね。だから、「すごい粘着質だな」とも思った時期やそういった方もいましたけれども、でもなんか、嫌悪感はないっていう。
長南 それって何なんですかね。河野さんが言うところの可愛げですか。
河野 可愛げだってそうだし、人間味だったりするんじゃないですか。そういう意味では、くぐってきている修羅場があるからこそ定着している人間力みたいなのがあるんじゃないですかね。ある起業家も最初は「ものすごく暑苦しい人だな」と思って、一番最初のミーティングから大分間が空いてたんです。それで、当時その会社と同じオフィスに別の投資先が入っていたので、毎週通っていたらその起業家に見つかって、「ひどいじゃないですか!」みたいな感じで寄ってきて、腕組まれて、「あー分かりました、じゃあ、もう1回打ち合わせしましょう」って言って。そしたら、2回目のミーティングの時に一気に印象が変わったわけですよ。だからその時に、ただ「暑苦しい人だなぁ」と思っていたものが、事業にかける覚悟だったりとか、質問に対して定量的な数値をもってしっかり回答してくるとか、ものすごくよく考えた上にこの事業を選択し、やれるという確信を持って臨んでいて、全財産を突っ込んで背水の陣でチャレンジしているっていうことの必死さっていうか執念っていうか。意外と先入観で、営業マンの人はただのノリで勢いで、みたいな先入観が僕の中にも多分あったと思うので、それが良い意味で裏切られたわけですよね。そういう情熱的な部分と、勢いプラス緻密な部分が同居している。だから、それが自分の中にすごくはまったっていうことと、なんか妙に使命感を感じたわけですよ、その方の事業に。これは投資をするべきだなぁ、と思ったし、その中においてはその人がやり切るだろうな、と。
長南 投資決定の時には特にどこを重視して見ていますか。
河野 結果的にはもう全部なんですけど、どんなに経営者が優れていても、勝負するフィールドが魅力的ではなかったら、難しいですよね。ただ、よく「でかいマーケットで勝負しろ」みたいな話ってあるじゃないですか。でも、この「でかいマーケット」っていうものがまた難しいな、と思うわけですよ。例えば、IoTとかって最近よく聞かれる言葉があるじゃないですか、人工知能とか。確かにでかくなるでしょう、でも、だからと言って、ベンチャーがそのど真ん中にチャレンジしにいって良いのかって話もあります。だからそういう意味では、でかいマーケットの横にできる、実は隠れたでかい市場っていうのがあると考えています。だから、ただ単にでかいマーケットに闇雲に突っ込んでいくっていうよりは、例えば「こういうものが市民権を得てきて大きい市場を形成すると、一方でこういう課題が出てくる」っていうことに先回りして気付けるかどうか。例えば、ECど真ん中で勝負するっていうベンチャーもあっても良いと思うけれども、そうじゃなくて、ECが伸びていく中で発生するであろう課題っていうものを見出し、誰かが気付く前にそこに着手できるかどうかっていう。
長南 なんか影武者的な動きですね。
河野 はい。僕はどちらかと言うとそっちを見ていて。色々と派手なものをやっていたから、裏側のソリューションも必要だよねっていう課題が見えてくるわけですよ。だから、BtoCのビジネスを投資して、その中で出てきた課題をBtoBで解決する、みたいな。
長南 BtoCからBtoBって結構難しそうに見えるけど、自然な流れですよね。
河野 はい、実はそうだと思います。
長南 BtoBからBtoCって中々行きにくいと思うんですよね。
河野 そうですね。だから、BtoBしかやらないって言ってる投資家さんもいらっしゃるじゃないですか。まぁ、展開が読みやすかったりしますからね。
長南 けど、実際やっぱりBtoBの方が継続性があるんですかね、BtoCより。
河野 うん。だから指数関数的な成長は難しいかもしれないけれども、確実に積み上がっていくであろうっていうボラティリティーの低さだったり、あとはやっぱり日本の大企業も色々なクラウド系のソリューションを使うようになってきていて、お金がそこに落ちるようになったっていうところもあるでしょうし。ただ、BtoBとかBtoCとか、そこまで考えていないですけどね、僕は。