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INTERVIEWS WITH INVESTORS

(2015/10 取材)

個人の想いを法人格の代表としての決断

投資家インタビュー Vol.5 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ河野純一郎氏 個人の想いを法人格の代表としての決断

長南 ベンチャーキャピタリストとしてのクロージングのポリシーをどのように考えていますか。

河野 すごく難しいですよね。僕、結構最後まで付き合おうとしちゃうタイプなんですよね。だからよく投資家に向いてないって言われます(笑)両取りっていう言い方になってしまうけど、ファンドマネージャーとしては業としてしっかりやらなければいけないので、起業家の想いと現実を比較した時に、あなたがやりたいっていう気持ちも分かる、でも、やっぱり時間軸を決めてその時に判断しなければならないという現状もある。経営者の願望、欲求だけで突っ走ってしまった結果、組織もろとも崩壊し、株式は紙きれになり誰も報われない状態になるかもしれない。であれば、ここでひとつソフトランディングさせる中において決着をつける選択肢もあるよね、という話を本当に正直に伝えていきます。その中で、「この事業を買ってくれた時にあなたも従業員もこの事業もハッピーになる相手っていうのはどこになるんだろうね」っていうところを一緒に考えるし、従業員のリストラが必要となれば、従業員の能力値とかを含めて出してもらって再就職の支援も一緒にやろうということを僕はやります。

長南 トップが志というか目的を一つにしてくれる場合は良いと思うんですけど、もうちょっとでいけるんだって言う人との溝が埋まりづらい、という場合にはどのようにコミュニケーションしていますか。

河野 そこは結構僕は厳しいですね。だってここまで君ができるって言ってやってきた、でもできなかった、これが事実だと。相当厳しく言ってますね。ただ、僕は厳しく言うけど、その場合は「救って逃げ道になってあげてくださいね」っていう株主を別に用意しておく。

長南 なるほど、一人二役みたいな感じですね。絶対に経営者が嫌だということはしないって言う方もいらっしゃいましたし、必ず最初の段階に自分と付き合うとはこういったことが起こり得ると伝えておくことが大切だと言う方もいらっしゃるし、色んなポリシーがあると思うんですけど、普段起業家とコミュニケーションを図っていく中で心がけていることはありますか。

河野 その話で言うと後者ですね。そもそも僕らのお金も人のお金なわけで、それを使って自分の夢の実現をやる、チャレンジするということは、当然その時間軸も含めて時間に限りがあるお金なわけだから、その時に結果が出せなかったらそういう風になることは仕方がないことであり、当然のことながら上場してその先の成長を単独で志向できるのはベストだけれども場合によってはM&Aということもあり得るよと。そういう契りを俺たちは結ぶんだと最初にちゃんと伝えて、そういうことを理解できる起業家にしか、そもそも入口時点で投資をしないですね。

長南 では、今のところそんなにクロージングでもめることはないと。

河野 全くないです。

長南 逆に、それは絶対嫌なんですっていう人の中にも良いなと思う人はいるかもしれないと思うんですけれども。

河野 その人にしか見えていない未来やこだわりがある人でないとだめなんだけど、それを自分の想いは想いとして持ちながらしぶしぶ、会社の代表取締役としては決めなければいけない場面では決める。二重人格とは言わないですが、法人格の代表として決められる人じゃないとだめですね。僕らだってお金、ファンドに期限がなかったらそれはずっと応援したいですよ。そういう生業なんだという意味で、やっぱり葛藤はありますね。

黒豹から黒幕へ

長南 もしご自分のファンドをLPから資金を集めずに自分の全財産で作ったとしたら、どういうポリシーでやりますか。

河野 二つやりたいなと思っていて、一つは、僕らの次のラウンドで大きく張れるファンドって今ほとんどないんですけど、パートナーとしてこの人はいけてるっていうベンチャーキャピタリストの案件に、10億円規模でどんどん投資していくファンド。やっぱりすごく困るわけですよ、自分たちのシリーズAの後にシリーズBで10億円ファイナンスしようとしたら、1億円ずつかき集めなければならない。

投資家インタビュー Vol.5 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ河野純一郎氏 黒豹から黒幕へ

長南 ちゃんと起業家と対峙するところで言うと、その回収ポリシーも含めてどういうファンドにしますか。待ってくれって言われた時に自分のお金であれば待つこともできる場合には。

河野 それは待つファンド。プライベートマネーということで、永久に待つ。

長南 待つというのはある意味、これは社の命令だからとか、ルールがあるからと言い訳にできてある程度律せているところもあるわけじゃないですか、ビジネスとして。それが無くなる辛さもありますけど、辛いところも無くなるじゃないですか。どちらでも選べる立場だった場合に、どちらを選びますか。

河野 期限というか起業家の心が折れない限りにおいては待つっていうことですね。起業家の心が折れたらもうその瞬間に回収ですね。確かにその期限が決まっているというのは回収の言い訳としてはすごく都合が良い話ではありますよね。

長南 それがなくても、自分が自由にやるとしたらそのようにしたいと。

河野 そうですね。なるべくそういうことをやって起業家の種をどんどん蒔いていきたいなぁと思いますよね。やっぱり何百年経ってすごい木になる木もあるわけじゃないですか。だからファンドっていうよりは日本のために樹木を植えていくみたいな感じになっちゃうんでしょうね。

長南 今のソーシャルアントレプレナーとか次世代への襷やバトンっていうものを大事にされている方は河野さんみたいな考え方をされるし、後に残さなければならないものがあると考えているから投資をするし、同じ投資案件でリターンが絶対もっと出るなって思ってもこっちを残さなきゃいけないからっていうので投資をするし。共感を得て人が来る、ということもあるんでしょうね。

河野 最近はだんだん欲がなくなってきていて。リードインベスターのポジションを獲りたいとかボードシートを取りたいというよりは、その会社のファイナンスのスキームとして一番座りが良いやつで良いんじゃないかって考える様にはなりましたね。そうすると、起業家から見れば自分達の立場に立って最適解を共に考えてくれているということで、結果選ばれることになったりするんですよね。

長南 ある意味中立で本当にフェアである人って、想いがあって損得だけで考えない良い経営者に選ばれることが多そうですよね。

河野 そうですね。選ばれることを目的にそういう行為をしているわけではないんですけれども。

長南 フィクサー的になってきましたね(笑)投資実績やExitの実績が出て、起業家からのアプローチが相当増えてきたからこそですね。若いうちは中々そうは考えられないですよね。

河野 若い頃は「俺がリードインベスターだ」、「コンペに勝った!」みたいなことが喜びだったりもしたんですけど、今は全然。

長南 どんな想いでベンチャーや起業家に接しているのか。ベンチャーキャピタリストの方の個性というか人間性というところで皆がやっぱり一番聞きたいところだと思います。

河野 やっぱり起業家だけじゃなくて、やっぱりこの人好きだって投資家さんに喜んでもらえるとすごく嬉しいわけですよ。別に感謝されたいからやっているわけじゃないんだけれども、会社としてもすごく詳しい人に入ってもらって、本来の目的であったお金プラス知見っていうところでベストなパートナーと組むことができて、結果僕の評価も上がる。そういう意味では「会社にとって最適なファイナンスの座組みをつくる」、という考えではいます。

長南 黒幕的な感じになってきたんですね。

河野 そう、黒幕です。黒豹から黒幕へ。あとは僕がもともと目立ちたがりではないので。

長南 黒豹から黒幕へ(笑)

河野 昔K-1ファイターで南海の黒豹っていう、レイ・セフォーって選手がいたんですけど。K-1選手ってみんなバトルサイボーグみたいなキャッチコピーついてるじゃないですか。で、なぜか知らないけど僕色が黒いんで、外苑前の黒豹とかって言われて。他の投資家ってそういうキャッチコピーあんのって言ったら別にないんですけど、僕だけ。黒豹から黒幕って、完全にダークサイドへ落ちたみたいな感じじゃないですか(笑)

投資家インタビュー Vol.5 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ河野純一郎氏

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