(2015/9 取材)
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起業家同士のコミュニティや経営・ファイナンスに関するノウハウを得る手段も増え、会社を成長させていくにあたり必要な情報が手に入りやすくなってきているものの、その成長やEXITに欠かせないプレーヤーとしてのVCや投資家がどのようなことを考え投資の決断をし、日々起業家とどのような関わり方をしているかについてスポットが当てられることは少ない様にも思います。 そのような現況を踏まえつつ、第一線で活躍する投資家の皆様の生の声や経験談をお伺いすることで投資家・VCの本質に迫り、起業家と投資家をつなぐきっかけをつくれればという思いから、本インタビューは企画されました。 第1回はベンチャーキャピタリスト達から親しみを持って「校長」と呼ばれる、厳しくも熱い想いを持った鈴木智也氏(リード・キャピタル・マネージメント株式会社 取締役 パートナー)を迎えて、ベンチャー投資に対する真摯な姿勢とそれにかける想いをお聞きしました。
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長南 まずはこれまでやってきたことについて教えてください。
鈴木 今はリード・キャピタル・マネージメントというVCにいます。前身はアントキャピタルパートナーズという、複数の手法で未公開の企業に投資をしていく会社のVC部門として2006年の10月に創業している会社なのですが、2012年11月のマネジメントバイアウトを経て今は独立系という形で活動しているというところです。リード・キャピタル・マネージメントの投資のスタイルとしては、名前にある通り、投資家の中でもいわゆるリードインベスターという立場から投資前に条件面やガバナンスの体制についてどのように考え今後企業成長していきましょうかという設計図を描いた上で経営者と一緒に当事者として関わっていき、EXITのタイミングまで粉骨砕身働かせてもらうというスタイルになります。私自身のキャリアを見ていくと、大学を卒業した後、NTT東日本という会社に入りまして、独特なカルチャーに馴染めずに早々にやめまして。
長南 NTTには何年いたのでしょうか。
鈴木 8ヶ月しかいないんですよ。その後、友人とベンチャー企業を創業しながら、出身大学の教授が主催していた企業間コラボレーションから新規事業を開発するプログラムの事務局を兼務し、ベンチャー・新規事業という切り口で事業を起こすサイドにいました。その後、2004年に転職をしてエムアウトという会社に入り、新規事業を3つほど、立ち上げから運営までやっていました。
長南 主に、どのような業種をみられていたのでしょうか。
鈴木 業種は大きく分けて2つあって、一つは経営コンサルの完全成果報酬型へのチャレンジ。もう一つはフード事業です。食に関わるところで一つはフードデリバリーの事業、もうひとつはお惣菜のeコマースをやっていました。そういった事業創出運営経験を経て、ご縁があってアントキャピタルパートナーズの方に入社をし、それが2007年のタイミングですね。約8年にわたって、VCをやっているというのがこれまでの歩みです。
長南 起業家をサポートしていく中で、投資家と起業家の付き合い方は投資前後で変わっていくのでしょうか。たとえば投資前は起業家と飲みに行くけど、投資後は行かないという人もいると聞きます。
鈴木 そういう意味では投資前後で変わるかもしれないですね。 僕の場合、投資前に起業家と飲みに行ったりはしないです。投資した後の方が起業家との人間関係の濃さを深める努力をしています。 投資を受ける時って、起業家はお金が欲しいじゃないですか。だから、絶対本音なんか出さないって僕は思っているんですね。
長南 (笑)
鈴木 初めて会う人の場合ですよ。何年も前から知っていれば、その人の特徴とか性格とかわかった上で投資できると思いますが、投資までの期間が限られている場合にはいくらその短期間に頻度を増やして人を知ろうと思っても、限定的で。
長南 どのくらいの期間があるとその人の特徴・性格が分かるようになりますか。
鈴木 だいたい1年ぐらい一緒にいれば分かってくるんですけどね。 投資前は逆に起業家がこれまでにどのようなことをやってきたかというファクトを掴みながら、それを裏取りする作業なんですよね。
長南 投資の判定をする期間は出会ってから投資まで最長どのくらいですか。直感でピンとくるものなのか、それとも要素の積み重ねがあってのことなのか、どのような形で判定していますか。
鈴木 長い間付き合う人に投資するというのはあまりないですね。もう直感ですね、最初は。
長南 他のVCの方々の中には起業家を昔から知っていて、学生時代から育ててうまくいきそうだなって頃に投資するという方もいると思いますが、鈴木さんはそういったことはあまりされていないと。
鈴木 チャンスがあればその形も良いですが、そういうことにあまり縛られてなくて、比較的ニュートラルですね。
長南 今までで一番ピンときた起業家の方はいらっしゃいますか。すごく良いなと思って投資したら結果成功した、失敗したというので違ってくるかもしれないですが、そういった経験はありますか。
鈴木 あります。すごく良いなと思って投資して結果的に大成功したのですが、オルトプラスの石井さんはすごく良い。根拠のある自信を持っているんですよね。それは例えば、なぜこの事業をやるんだ、ということの、マーケット成長性へのチャレンジというのも当然あるのだけれども、それにチャレンジするだけの理由が過去の実績からちゃんとあるんですよね。 石井さんはもともとVCも経験していて、そのあとAQインタラクティブ、もっと言うと、オーナー創業者の側近もされていたんですよ。だから経営の帝王学みたいなものを学びつつ、AQインタラクティブの上場準備室長として、上場の先頭を走っていたんですよね。
長南 会社全体のことはわかると。
鈴木 わかるわかる。経営というものを間近に感じる経験をし、そのAQインタラクティブが上場した後にはブラウザゲーム事業、ウェブゲームのブラウザ三国志っていう大ヒットタイトルを成功させたチームのマネジメントをやっていたんですよね。なので、経営がわかる、ゲーム運営のイロハっていうのもわかる、ちゃんとヒットを科学的に出せる力を仕切れる人です。
長南 一発狙いの宝くじのようなものではなくて、ちゃんと分析からロジカルに組み立てているので比較的打率も高いという感じなんですね。逆に失敗というか、思い描いていたのと違ったというのは、具体的に何かありますか。
鈴木 色々ありますが、結局はチームなんだと思うんですよ。石井さんも経営者としてすごくいいけど、一人ではできることが限られる。石井さんとは別にCOOとCTOがいて、この3人のチームが要はクリーンナップの3番4番5番を担っているケースでした。
長南 失敗のケースは。
鈴木 失敗のケースは、完全4番ピッチャー型。要は立ち過ぎてるケース。たとえば、本当にスティーブ・ジョブズのようだと思える人でも、支える人がちゃんといなかったり。支える人を連れてこれなかった僕らの責任でもあるんだけれども。 人をどういう風に使いこなせる経営者に、後々にでも成長できるか、というところだと思うんですよね。