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INTERVIEWS WITH INVESTORS

(2016/1 取材)

生き死にを決めるような渇いたやり取りを

長南 シンガポールに移住してからは、エンジェル投資家として活動して現在に至る流れでしょうか。

加藤 そうですね。今はマレーシアのジョホールバルにいるんですけれど、シンガポールの永住権を取って、基本的にはシンガポール・ベースドです。

長南 日本には年間何日くらいいらっしゃいますか。

加藤 25〜30%、100日くらいですね。夏と冬に1ヶ月ずつ、それ以外の月は1週間前後。そういう生活をしながら、エンジェル投資家として活動しています。日広という会社を140名にまでした経験は僕の財産で、事業会社を16年間もやっていると、売上が回収できないとか、人間関係が上手くいかないとか、組織の問題が大体分かるんですよ。もちろん会社の規模によっても違うし、5名、30名、100名で問題はそれぞれのフェーズで起こるけれど、僕は全部通ってきたので。

投資家インタビュー Vol.10 エンジェル事業家 LENSMODE PTE, LTD.加藤順彦氏 生き死にを決めるような渇いたやり取りを

長南 どのフェーズでどのようなことが起こったのか、自分を主語にして語れるからこそ、アドバイスができる、と。

加藤 そうですね。人の問題が多くて、小さなことだと、「昨年入社した新卒15人の顔と名前が一致しない」とか(笑)自分がそうだったので、よく分かるんですよ。20人以上の社長と毎日、毎週、毎月やり取りしているんですけれど、資金繰りに採用計画、成長戦略から顧客のフォローまでやっていたというところが知見の違いになっていると思います。

長南 投資先に対してはどのようなスタンスですか。エンジェルだから、IPOやEXITを目指していなくても構わないのか、やはり結果は求めるものなのか。

加藤 前者ですね。上場は目指しても目指さなくても良いけれど、どちらにしても社長と同じ目線で物事を決めるところに参加します。「資本と経営に参画」って言っているんですけれど、お金を出すだけでなく、ボードメンバーとして経営上の意思決定に関わっています。シードはメンバーの顔ぶれが非常に大事なので、首検分に僕自身が参加することで、他のステークホルダーやVCが出資を検討してくれるんですよ。

長南 ボードメンバーというと、役員報酬は自分が出資した中から貰っているのでしょうか。

加藤 役員報酬は赤字の参画先からは原則頂いていません。他の役員は大体創業メンバーで、僕だけ従業員でなく、独立取締役です。基本的には会社がサスティナブルであることが大事なので、僕が協力するのであれば、出資ありきで、ちゃんとコミットしたいんですよ。

長南 コンフリクトが極力少なくなるように、単純化しているのですね。

加藤 そうですね。自分を単純化することに非常にこだわっています。僕のレピュテーションはすぐに取れるので、何でその会社に出資しているのか、経営陣の役割分担をどのように見ているのか、投資家の皆さんから質問を受けることが多いんですよ。僕は全部の取締役会に参加しているので、実際そういったことを語る役割にいるんですね。

長南 投資先の全ての取締役会となると相当大変だと思いますが、そのスタイルになったきっかけは何ですか。

加藤 僕はシンガポールに出て行った最初の一年間、2008年の6月から2009年の6月まで、進出支援の会社を二人ではじめたんですけれど、大企業の東南アジア進出室長みたいな人とマーライオンを見たり、マリーナベイサンズに昇ったりするだけで、僕たちは旅行会社の観光ガイドかと(笑)業務提携できそうな工場や企業の視察をアレンジしても、「じゃあ社に持ち帰って・・・」ってその人は決められないんですよね。

長南 やっぱり日本の大企業だとそうですよね。

投資家インタビュー Vol.10 エンジェル事業家 LENSMODE PTE, LTD.加藤順彦氏 生き死にを決めるような渇いたやり取りを

加藤 一生懸命口説いても、その人が決められないなら意味がないと思っちゃって。それよりも、社長と一対一の関係になって、生き死にを決めるような渇いたことをやりたかったんですよ。日広の頃、広告の仕事がすごく楽しかったのも同じ理由なんですよね。社長の眼の向こう側を見たり、その社長に売掛をつくって平気かを考えたり、そういうところに実は自分なりのエクスタシーがあったんだと気づいたわけです。

長南 経営状況の芳しくない時ほど、広告で起死回生を狙う会社が多かったそうですしね。

加藤 一番多かった時で月間300社の広告主に売掛をつくっていたんですけれど、社内の色々な仕組みで与信額を上げたり、もっと大きく売掛をつくりたい時は僕自身が現場に出張って、社長と面談したり。売掛をつくるかつくらないかっていうのは、まさに丁か半か、伸るか反るかみたいなものですよ。1,000万円の売掛をつくったら、月末締めの翌月末払いで来月2,000万円になるわけですよ。保証人を取るわけでもないので、だめならだめで、実際に断ることも多かったです。

長南 ネット広告だから、商売が上手くいかない時に売上を回収できない可能性も高いですよね。

加藤 そうですね。「月末締めの出世払い」って言葉をよく使っていたんですけれど、大丈夫だと思って大きく売掛をつくったら、その会社が豪快に潰れてしまって、僕たちが代わりに85%を負担してメディアに払ったことも何度もあります。ただ、そういうやり取りが僕は面白かったんですよ。話を進める中で「実は、加藤さんに株を持ってもらいたい」あるいは「社長の仕事は面白いから、僕にも出資させてほしい」となり、ほぼ全て日広のお取引先や仕入先でしたけれど、日広をやっている間に合計34社に出資しました。

長南 お金を出して外側から応援するだけでなく、内側にまで踏み込まないとワクワクしない、と。自分でもう一回経営したいという想いはありますか。

加藤 今はないですね。ただ、エンジェル投資というか、「資本と経営に参画」というスタンスの活動はあと3年って決めているんですよ。一区切りつけた後も、シンガポールと東南アジアをぐるぐる回ることは続けるつもりですけれどね。

長南 そう思われるのは、何か原因があるのでしょうか。

加藤 20数年前とは明らかに状況が変わっていて、僕が出資した株式会社DeNAの共同創業者である川田尚吾さんが投資している株式会社はてなが上場を発表したり、ベンチャーのエコシステムがワークし始めているんですよ。そのエコシステムを考えると、今とは違ったことをやっていかないと、と思っています。

投資家インタビュー Vol.10 エンジェル事業家 LENSMODE PTE, LTD.加藤順彦氏

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