(2015/10 取材)
長南 現在投資されている案件は20数件とのことでしたが、お一人でやっていく上で何件くらいが投資の限界でしょうか。当然コミット度合いに濃淡は出てくるとは思うんですけど。
川田 基本的にアーリーステージでやっているから当然、上手くいかない案件もあるわけですよ。それでちょっと冬眠期間に入ったりとか、そういうところは頻繁に会うわけでもなくなりますよね。
長南 役員としてでなくオブザーバーとして、週に1回、もしくは月に1回会うぐらいのイメージでしょうか。
川田 そんな感じですね。元々僕は上場企業の非常勤取締役をやっていたので、役員として入ってしまうとこの業界ではすぐピボットするというのもあり、バッティングする可能性があるから、そういったオファーはお断りしています。
長南 あくまでオブザーバーで株主として会社をサポートしていくと。案件のオファーは起業家側から来るんでしょうか。
川田 基本的には人の紹介から来る案件が多いですね。Facebookで「はじめまして」っていうのも結構来るんですけど、それは恐いから会ったりはしないです。
長南 その場合はどうやって対応されるんですか。丁重に断るんですか(笑)
川田 いや、もう開封すらしないですね。ある時に南場さんから電話があって、「川田さん、明日ちょっと講演するんだけど、川田さんの名前出して良い?」と聞かれて「良いですよ」って答えたら、翌日、その講演がすごいバズり始めていて、いざ内容見てみたら「お金が無くなったら川田尚吾へ!」って(笑)
長南 南場さんがそう言っちゃったんですか(笑)
川田 「投資家は選ばなきゃいけない。お金が無くなったら私が日本で最も信頼している投資家・川田尚吾へ!」それでもうFacebookでメッセージが殺到。「はじめまして」って。
長南 それ言ったらたくさん話が来ちゃいますよね(笑)DeNAにいらっしゃった当時、南場さんと川田さんの関係性ってどういう感じだったんでしょうか。
川田 基本的に彼女がCEOで僕がCOOなんですけど、僕は現場にかなり入り込んで、特に一番ハードなところに入って統括をする、みたいなことをやっていました。システムを作り上げたら息をつく間もなく今度は売上を上げなきゃいけないって話になってそれから僕が営業部長に入って、みたいな。COOと言いながらもオペレーション・フローを作ったりとかそういうのを含めて、ゼロからの業務系の立ち上げとか、サービス立ち上げとか、会社としてやるべきことを立ち上げていって。南場さんの方は経営全体を見つつ、IRも含め、戦略とかアライアンスとか。実務と経営者。あとはCFOがいて、その3人でやっていたという感じです。
長南 3人だと出来ることはどんどん増えていくんですかね。それともやっぱりワントップが良いのか、組織論的な話になるんですけど。
川田 そこでいくとDeNAって、南場さんも言ってるんだけど、基本的に南場智子がカリスマで全て決めるみたいな感じではないんですよ。基本的には現場に任せるみたいなところが結構強くて。だから例えばMobage(モバゲー)の最初の立ち上げでも、南場さんは全然入っていなかった。別の2人で企画して経営会議で一応決裁をして。当然僕らはその経営会議のタイミングで一度見ていますけど、もうそこからはあまり触らない様にしていて。そのうち社内で色々なプロトタイプのゲームが流行りだして、やがてリリース。そのリリースまでの間の紆余曲折は僕も南場さんもあまり知らなかった。
長南 そういう文化、やってもいい文化があるんですかね。
川田 わりと任せていましたね。最初はコマース事業しかやってなくて、そこから初めて3事業部制にして、そのうちの1つがモバイル事業部で、そこがモバオクを立ち上げました。その辺りから段々モバイル事業はそのチームに任せていくようになり、Mobage(モバゲー)はモバイル事業部が新事業として立ち上げました。
長南 そこでの賛否両論はあったんですか。
川田 いやもう、全然。モバオクであのチームの能力は証明されていたので、ほぼノータッチですよ。
長南 DeNA自体が事業を作ってもしダメだったらすぐ閉じれば良いって挑戦をさせてくれる組織なんですかね。
川田 今もそうなっていますね。
長南 そういった組織作り的なものについても、投資先の起業家にはアドバイスをしているんでしょうか。
川田 それは本当に会社によってそれぞれなので、会社の個性に合わせていますね。全部DeNAの成功事例でやっていくと、それが合わない会社もあるので。
長南 VCではファンドの期限が定まっていてその期間内でクローズしなければならず、長くて10年、短ければ5年しかEXITまでの期間がないということがあり得るわけですが、エンジェル投資家は一応、生きている限り投資をし続けられるじゃないですか。それってやっぱり投資の仕方として違ってくるものですかね。
川田 そうですよね、違いますよね。
長南 EXITを見据えて投資をするというよりは、面白かったらとりあえず入れてみる、っていう感じが多いですか。
川田 もちろん最終的に規模を大きくEXITさせたいっていうことを見込んで入れるんですけど、まずはしっかりシリーズAまで持っていけるよう支えるケースがBtoCの場合は多いですね。一方でBtoBの場合は、回り出したらそれほど資金が必要でなかったりもする。ちゃんと売上を上げて、利益を出せるビジネスを立ち上げて行くサポートをする。そこはVCと基本的には一緒ですよね。
長南 エンジェル投資家から見て日本のVC業界に対する要望とか、その辺って何かありますかね。もしくは、「すごくよくやってくれている」でも良いんですけど。
川田 VC側の事情は僕あんまり分からないんですけど、基本的にはやっぱり景気の変動に左右されがちなんですよ、VCマネーって。一方でエンジェルマネーはどうかって言うと、そこまででもない。だからやっぱり、VCからのお金の供給はある種安定しない部分がありますよね。お金の余っている時は値段釣り上げてでも入れようって営業攻勢になりがちだし、お金が無い時は結構大変だし。安定しないので、エンジェル側っていうよりも起業家サイドに近いんですけども、もうちょっと安定してお金を出してくれるようなLPをちゃんと捉まえていただけると安心ですかね。
長南 そうすると、LPとなる事業会社の人達がいかに出すかっていうところもあると思うんですけど。海外はLPとしての出し手も多くいますしね。
川田 海外はあれですね、年金基金とか、ああいう不動の存在的なものがありますよね。日本ってそこはまだ弱いですかね。
長南 海外は基金の規模が大きいので、その内のポートフォリオの一部でVCがあって、ハイリターンを取るみたいな流れになってますよね。日本だとリターンが大体200%を超えているとOKと言われたりするところが、向こうだと500%とか1,000%という数字を求められるみたいで、ちょっと違うな、という感じですね。