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INTERVIEWS WITH INVESTORS

(2015/10 取材)

テクノロジーにお金が付くカルチャーが無かった

長南 投資家を志す人は当時それほど多くはなかったと思うのですが、何がきっかけだったんでしょうか。起業して事業が成功して資金を得た後に後輩の育成のために投資でもしてみようかというケースが通常は多いと思うんですけど、最初から投資家が必要だっていう危機意識を持った人は今まであまりお聞きしなかったです。

川田 僕は元々大学では理系だったんですね。研究をしていてテクノロジーは非常に近いところにあって、一方で日本とアメリカを比べて見た場合に、アメリカはそういうテクノロジーにお金が付くっていうカルチャーがちゃんとあったんです。当時だとビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズはもうスーパースターでしたけど、それ以外にも例えばジム・クラークっていうシリコン・グラフィックスを創業した人がいて、彼は元大学の先生なんですよね。彼はスタンフォードでいわゆるコンピュータグラフィックを研究していて、その研究テーマに資本家やVCからお金が付いて研究室ごとスピンアウトして。そういった展開は僕にとってはめちゃめちゃエキサイティングなんですけど、それが日本にはまったく無かった。

投資家インタビュー Vol.6 DeNA共同創業者川田尚吾氏 テクノロジーにお金がつくカルチャーが無かった

長南 今でこそ、産学連携ということがもてはやされつつあるような気がしますが、なぜアメリカにあって、日本には無かったんですかね。

川田 まずそもそも、あの当時は昭和の時代で基本的に資金の調達手段は直接金融でなく間接金融で、銀行融資という世界です。いわゆるリスクマネーという概念ではなく、先にも言った様にVCと名乗っていたようなところは、基本的にはVCという名の不動産融資しかやっていなかったりとか、もう滅茶苦茶だったので。

長南 確かに当時は工場の設備投資であるための投資とか不動産を持っている会社への投資が多い印象があります。当時と比べれば今は当初に必要となるハードへの投資や立上時期のイニシャルコストが小さくなって、全体的に投資額も小さくなっていると思うんですけど、やはりその辺りの違いはありますかね。

川田 全然違います。当時はテクノロジーを見る目があるキャピタリストがいなかったし、そもそもそのリスクマネーというものが無いんですよ。あの当時は僕はそこが全く足りないと思ったし、いわゆる技術的なイノベーションが富をつくり、民間資本を作っていくと考えると絶対に必要なセクターにも関わらずそれが無いのはおかしいというのはあったんだけど、ぶっちゃけた話、自分で色々とやりたかったんですよね(笑)「好きだ、これ面白い」ってアイデアで、「これ何か作れるんじゃないか」って思った時に実際に立ち上げるとなると億単位でやっぱりお金がいるじゃないですか。でも今と違って集め方がないんですよ。銀行からの融資か、もしくは個人から借金するか。50万円とか100万円ぐらいならクレジットカードというのもあるかもしれないけど(笑)

長南 カードローンはズルズルいって怖いですけど、10年前くらいのベンチャーは資金繰りに困るといくつもカード作って借りまくってましたね(笑)

川田 当時は2桁億円規模の投資が入る様な環境では全く無く、銀行から運転資金を調達しながら何十年もかけて事業を大きくして、自分の会社に資本が蓄積できたらそこで勝負、みたいなゆっくりとしたビジネスの流れで。何らかの形で銀行からお金を借りることになるわけだけど、技術について分からない人を相手にいかにこれが素晴らしいかをプレゼンしなければならないというのも嫌だったし。話をちゃんと理解した上でジャッジしてリスクをとれる人が必要だと思いました。

長南 今はすごく楽しいんですね。色々な事業の話を聞いてみたり、実際に投資してみたりで。

川田 楽しいです。あの頃は自分でやりたいと思っていたけど、今は自分で研究者に戻ってゼロからやるというよりは色々な領域にまたがって入れていく方が面白くて。実際に投資家をやってみて、日本には資本家がいない、リスクマネーが少なすぎるっていうのが全体感で分かったりする。今も技術志向でエンジェルマネーで、という投資家は全然足りないですよ。

長南 若手の起業家は「エンジェル投資家=お金を出してくれる」みたいなイメージを持っていると思うんですけど、それだけじゃないってことですよね。エンジェルの人はちゃんと技術も事業も厳しく見れて、事業をちゃんと引っ張り上げてくれる人っていう感じでしょうか。

川田 そこはちょっとまた次のステップの話ではあるんだけど、まずはやっぱりお金を出すのが一番の仕事ですよ。それが大前提で、加えてそれだけじゃないバリューを出せるかどうか、みたいなものを起業家が求めているんですね。起業家は今や二極化していて、いけてると見られる起業家には投資させてくれっていうオファーが殺到していて、完全に売り手市場。だから一部のスター起業家は資金を調達する時に、投資家に事業経験があるかとか、起業経験があるかとか、自分達にどういうサポートをしてくれるのかとかをすごく気にしますよね。

皆が使うプロダクトが世に出る手伝いをしたい

長南 いま投資している25社について、投資金額はどれぐらいでしょうか。

川田 2桁億円まではいってないですよ。大体はシードの段階ですからね。追加での増資に応じたりというのもありますけど、シードの段階で入れるから1社当たり1,000万円未満から数千万円の間、平均で1,000万円前後ぐらいですかね。

長南 株式のシェアについて、目安はありますか。

川田 大体は最初入れる段階で5%〜10%。色々なパターンがあるんですけど、今はエンジェルの段階で外部最大投資家になるような案件重視です。エンジェルフェーズでリードをとってシリーズAまではその感じでやります。色々な有名エンジェルから一口ずつ集めます的な案件は最近はあまりやらないようにしています。やるならちゃんとガッツリやりたいので。それとは別に自分でシンジケートを組んでエンジェル軍を4人で構成するとか、そういうのもあります。

長南 一口ずつというオファーだと、どれぐらいの金額が多いんでしょうか。

川田 まぁケースバイケースですけど、数千万円の調達を5〜10人で分けて、みたいなそういう世界ですよ。

長南 投資をする時に一番求めているのはリターンの大きさなのか、プロダクトを見てなのか、起業家個人を見てなのか、どの辺りが一番投資しようと思うモチベーションになるんでしょうか。

投資家インタビュー Vol.6 DeNA共同創業者川田尚吾氏 皆が使うプロダクトが世に出る手伝いをしたい

川田 基本的には良いプロダクトを出しているところが成功確率も高いはずなので、良いプロダクト=成功、みたいな感じです。僕はアウトプット重視をするので、いわゆるコンテンツ的に面白いからいいやっていうよりはちゃんと結果が出る案件に入れたいなと思っています。まぁ基本的には投資したら投資したで、なんとか形にしたいんですよ。

長南 サービス含めてプロダクトを世に広まる形で生み出したいということですか。

川田 いわゆる皆が使うようなサービスなりプロダクトを一緒に作っていきたいみたいな気持ちはあって、それが世に出る手伝いをしたいという感じですかね。プロダクトを作るのはエンジニアあるいはマネジメントチームなので、僕はあくまで作るお手伝いとかそれを広めるお手伝いとか。

長南 ベンチャーキャピタリストの方に何を見ますかって質問させていただくと、経営チームっていう答が比較的多く、プロダクトも重視されているとは思うのですが、真っ先にプロダクトと言う人はそう多くないんですけど、やっぱり違いがあるんですかね。

川田 僕は面接してチームやキャリアでジャッジできるっていう才能が無いんでしょうね(笑) 人と会って話をしても、その人が良いプロダクトを作り上げられる人かそうでない人かはジャッジできないと思っているので。なぜかって言うと今まで色んなすごいプロダクトを生み出してきているエンジニアといっぱい会ってきたんですけど、そういう人たちって別にしゃべりが上手かったりするわけでもないじゃないですか。あと、さっきのチームっていう意味でも僕らが入れるタイミングはまだチームが構成されていなかったりするわけですね。エンジニアと社長の二人だけ、みたいな。

長南 今まで投資したチームの中で最少人数のチームは何人でしたか。社長一人で、とかもありますか。

川田 例えば社長一人で会長が投資家という形で、実質ほぼ一人に限りなく近かったというのはありますね。色んな投資家が入っていたオフィスにいて、そこには会議室も無かったからミーティングする時には毎回、カフェ代は俺が出すって言って。会社のP/Lを汚したくないから(笑)

長南 その社長一人の時点で投資された会社ですが、プロダクトについてもある程度見えていた感じですか。

川田 プロトタイプは現在の形に近いものが動いていました。10秒で投資決定ですよ。10秒で。経営者は前に別のサービスをやっていた頃から知ってはいました。それでとても優秀なエンジニアっていうのを知った上での話にはなるのですが。今のプロダクトのプロットを僕に初めて見せてくれて、その場で決定、って感じですね。インターフェースも若干いじってはいたけど今に極めて近いやつが出ていましたね。

投資家インタビュー Vol.6 DeNA共同創業者川田尚吾氏

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