(2015/10 取材)
長南 今後の投資対象としてはどのような領域が一番興味がありますか。
川田 やっぱり、ハードは面白いし、元々機械工学とかやっていたから、ハード嫌いじゃないんですよ。ただ、ハードはやっぱり圧倒的にお金がかかるので、投資規模が100億円規模になったら考えますかね、って感じです。面白いと同時に難しさも分かるし、やっぱり日本の家電メーカーってすごいと思うんですよね。
長南 ものづくりとか車とかって人の命にも関わってくるものは特に難しいっていう印象はありますけど、そこはトライしてみたい領域ではあるんですかね。
川田 いわゆる日本お得意の摺り合わせ技術的なものって結構難しいと思うんですよ。デジカメとか車とかの摺り合わせ系をゼロから作ろうとするとものすごい資本投下が必要だし、今の自分の体力だとちょっと違うかな。一概にだめって話ではないと思いますが。
長南 特許とか知財権の面でも結構、縛りが出てきますよね。
川田 すごく大きな社会的インパクトを与えるみたいなところでいくと、最終的なユーザー製品っていうより、製品の中のごく一部をやるとか。センサーやチップなど、うまく切り取れる領域はありますね。基本的には競合が数多くいる世界になるので差別化がちゃんとできないとダメですね。
長南 ハードが好きとなるとやっぱり、車やロボットやロケットを作ってみたり、ということにも興味はあるんですか。アメリカだとイーロン・マスクはテスラで電気自動車作ったり、SpaceXでロケット作ったり。
川田 興味はあるけど、じゃあ車やロボットかって言われるとよく分からないですね。宇宙も僕はあんまり。火星はちょっと気になってきたかな。あまり地球と関係が無いところの宇宙には興味が無いですね。月とか火星に合金の工場を作るとかそういうのは面白いと思うんですよ。重力が小さいから地球ではできないケミカル系作りますみたいなのは、そういうのは面白いと思います。
長南 理想とするエンジェル投資家のロールモデルって誰かいたりしますか。
川田 今はあまりいないですね。昔はジム・クラークとか、アカデミックのバックグラウンドがあってそこから出ていって、みたいな人とか良いなぁと思っていました。
長南 アメリカって教授が実業家や金融業界に来てもう一回大学に戻るような動きがあると思うんですけど、あれってアメリカ独特のものなんですかね。
川田 日本だと大学の仕組みがやっぱり終身雇用前提になっているのであんまり出たり入ったりというのは無いじゃないですか。テクノロジー自体は色んな技術があったりするんですけど。
長南 日本でも今は政府が後押しするような形の産学連携のようなものが増えてきている印象ですが、良い兆候として捉えられていますか。
川田 すごく良いと思います。素晴らしいと思いますよ。
長南 最近の日本のVCのファンドレイズには、大半がLPとして国のお金が入っているケースが多いんですけど、アメリカって国とかそういうのはあるんでしょうか。
川田 LPとしてではないですが、補助金みたいのが出て、会社の技術振興のためということでお金を返さなくて良いようなものがあったと思います。
長南 アメリカはそういったことをやっていかないと衰退していくからやり続けなくちゃいけないっていうのもありそうですよね。
川田 そうでしょうし、テクノロジーにお金が付いてくるというのも非常によく分かっているので、結果も出ているし新しい産業も生まれてきていて、そういう新しい富の誕生というか富を作り続けるような企業の誕生というのもリアルで見ている人たちが政策やったりしているので、そこは日本と違いますよね。
長南 川田さんの投資は日本がメインですか。
川田 いや、海外も結構やってます。ただ、やっぱり日本人ですよね。アメリカ人だったら基本的にアメリカのVCから投資を受ければ良いわけで、僕はやっぱり日本人が頑張るのを応援したいですね。
長南 日本を元気にしたい、日本人を応援したいっていうのがエンジェル投資家をやられている中ではやっぱり根底にあるんですかね。
川田 今のところの優先順位としては、というところですね。将来的にどうなるかは分からないです。面白いことをやる人をサポートする、というのはベースにあって、とりあえず日本を、です。
長南 川田さんは女性起業家に投資をしているということでも注目されていて、確か「川田ガールズ」でしたっけ(笑)特に女性をメインに応援しようというものがあるんですか。
川田 女性を特に、というのは全くないです。たまに勘違いされていわゆる女性のキャリアをなんとか、っていうイベントに呼ばれたりもするんですけど(笑)
長南 勘違いされるんですね。 この前、サンフランシスコのコワーキングスペースに行った時に、女性のエンジニアも多くいて、男女比が五分五分ぐらいでした。日本ではエンジニアは男だらけで、アニメーションとかに女性がちらほらいる印象があるのですが、日本も将来的にはそのようになるんですかね。
川田 普通にそうなるんじゃないですか。エンジニアがちゃんとキャリアとして一般化してくれば、女性にとってもより選択肢の一つとなってくるはずなので。
長南 投資をしていて起業家が女性の場合と男性の場合で、サービスを見る視点に違いはありますか。
川田 僕が学生ベンチャーをやっていた時に女性もメンバーにいたし、コンサル会社の時にも女性パートナーは何人もいてミーティングをやっても男だけでディスカッションになるケースがむしろレアだったのですが、実際に投資を始めてみると結構な会社が経営ミーティングのメンバーに男しかいない。むさ苦しいよっていう(笑)そこで言うとね、女性の方がややまぁ現実的ですよね、色んな意味で。男のエンジニアはワーと走って変な物を作っちゃうところもあるんですけど、そこを現実的に指摘してくれたりみたいなのはあったり。女性にせよ男性にせよ、皆それぞれ千差万別なので優秀だったらどちらでも全然オッケーですよね。単にプロダクトが良ければ入れるし悪ければ入れませんと。
長南 男性と女性で作り出すプロダクトに違いはありますか。風合いやインスピレーションでちょっと違ってくるとか。
川田 例えば育児サポートサイトみたいなものは女性がやっている方が説得力があるというか、発信しやすいじゃないですか。実際、子どもをいっぱい育てて色々と苦労していたらすごく説得力があります。出資先で、女性エンジニアのCEOが経営するオンラインクリーニングサービスがリリースから1年足らずでアパレルメーカーに買収されたんですけど、そこもやっぱりクリーニングとか家事系みたいなサービスって、女性の方が割と身近といえば身近で。コンシューマーから見た時の分かりやすさみたいなものはあるかもしれないです。だけど、じゃあ女性だからバリバリなハードウェア系のテックをやってはいけないかって言えばそんなことは全然ないし、男性が家事代行のサービスをやってはいけないわけでもないし、あんまり性別でどうという感じでもないですね。それよりもエンジニアのバックグラウンドがあるかどうか、という方が大きいと思いますよ。
長南 経営者は、エンジニアの経験者、もしくはエンジニアであった方が良いと。
川田 僕が大体投資している案件は、エンジニアのバックグラウンドがあるか、もしくはエンジニアと一緒に起業するみたいなケースですよね。エンジニアのバックグラウンドは特に無く、プログラムも全然書いたこともないような人が「エンジニアはこれから見つけます」みたいな会社にはあまり投資していないですね。
長南 本当にプロダクトができるかが分からないですものね。
川田 尚吾氏KAWADA SHOGO
株式会社DeNA共同創業者
東京都立大学大学院にて博士(工学)を取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、1999年にディー・エヌ・エーを共同創業。以降COOとしてサービス開発、システム開発の統括、営業部門立ち上げ、マーケティング統括など一連の事業立ち上げをリード。2008年に非常勤取締役、2011年より顧問。現在は日米欧のスタートアップへの投資、支援を中心に活動。