(2015/9 取材)
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最近は比較的派手な投資対象のBuyOutやIPO案件が増えているものの、その素顔はあまり知られていないベンチャーキャピタリストである、日本の老舗企業がLPに名を連ねる日本ベンチャーキャピタル株式会社の桑園寛之氏にこの20年のベンチャー企業及びVC業界の変遷についてインタビューを行いました。
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長南 出会ってからはもう15年近くになりますが、結果ほとんど仕事を一緒にしたことはないですが(笑)改めて現在までの経緯について教えてください。
桑園 1995年に新卒であおぞら銀行に入りまして、最初の5年くらいは銀行業務、それからベンチャーまわりの仕事を10年ぐらい。2009年に今の日本ベンチャーキャピタル(NVCC)に入って丸6年が経ちました。
長南 NVCCへの入社はリーマン・ショックの後でしたよね。
桑園 はい。あおぞら銀行でVC業務を立ち上げてやっていたのですが、そのファンドがクローズするという話になって、銀行に戻れという辞令が出ました。それであいさつ回りをしていたら、NVCCの社長に「うちに来たら」みたいな話をもらって、じゃあそうしようかなって転職した、という感じですかね。
長南 銀行の関西支店に異動するとかの話が出て充電するかみたいな話もありましたが(笑)時期的にはリーマン・ショック後でみんなVCをやめて資金も集まらない頃で、ベンチャー企業に投資する人はあまりいなかったですよね。
桑園 そう。一方で2009年は投資を始めたタイミングとしては良い時期だったかもしれないです。ベンチャーキャピタリストとして最初に投資したのは1999年ぐらいで日本で初めてADSLを持ち込んだ会社でした。当時はインターネットの黎明期で、インターネットはほとんど投資の対象ではなくて、「インターネットを速くする会社です」という稟議を上げたら誰も理解できなかったです。すごく印象に残っています。
長南 銀行でVCをやっていた時と現在で投資対象は変わっていますか。ITもやればバイオもやっているという幅広いイメージがあります。
桑園 NVCCには色んなファンドがあって、例えば大学に特化しているファンドもあれば、ゼネラルファンド、地域ファンドみたいなものもあります。それを15人くらいでやっていて、主に自分はゼネラルファンドを中心にやっているけど、当然他のファンドも手伝ったりするので、そういう意味では、ここに必ずフォーカスするというよりは、そのファンドをちゃんと仕上げるというやり方で投資をしています。NVCCに移ってからは、よりITサービス寄りに近い感じにはなっています。
長南 それは時代の流れでしょうか?
桑園 まあそうですね。銀行だとどうしても支店から上がってくる案件もあったりするから、銀行としてはどうしてもITをやらなきゃいけないっていうものもないから、そういう意味ではこっちの方が色々やるというか。NVCCでは結構個人の裁量やインセンティブが強く、リターンを出せばそれだけ自分にも返ってくるから、リターン出しやすいのはどこだっていう発想になっていくと、ITサービスになるみたいな。 ファンドそれぞれに特性があって、それぞれにLPが出資してくれているから、そのLPの意向っていうのは当然あるけど、ゼネラルファンドではどちらかというとリターン重視という感じです。
長南 領域をどこかに特化するというのは、ほぼ無いと。
桑園 うちはみんなバックボーンがばらばらで、例えば半導体出身の人とかいて、そういう人は技術について詳しいから、明確に謳っているわけではないけど、自然にテクノロジー系の担当になっちゃうとか。何に投資しても良いのだけれど、結局自分が投資してリターンを最大化しようとした時に、自分が一番やりやすいところに入っていくから、そうすると「俺はやっぱりこれはやらない」という風になってきて。この間上場したアパレル会社も女性のキャピタリストが創業の時から投資していて、彼女はライフスタイルとかヘルスケアとか介護とかによく投資していて、なんとなくそういう風になっている。自分の興味があるところに特化するという感じです。
長南 リターンだけを追い求めているというより、興味のある分野、好きな分野に投資しているということでしょうか。
桑園 というよりは自分の好きなところの方が、リターンを求めやすい。会社の設計がそもそもそういう形になっていて、それが個人のターゲットをなんとなく絞らせているというところがあるのかもしれない。過去バイオに投資している人は結果としてバイオ中心だし。
長南 元々は銀行の中の貸付などの資金運用のひとつの事業としてVCがあって、VCで投資をしてうまくいった会社に対して多額の貸付をするというのが銀行系VCの走りかなと思っているのですが、今後も続いていきそうでしょうか。金額がそれなりに大きいし、お金に色がなく、綺麗な金だから必要だと言う人もいます。
桑園 やってもいいと思います。はっきりしているのが、銀行系のキャピタル自体が銀行のCVC的な位置づけということです。彼らの基本的な発想はリスク分散で、色々なところを囲い込んでいくっていうパターン。そういう風にして管理していくのが銀行のやり方っていうか、リスクマネジメントですね。ただ、だから企業の細かい成長の過程に注視していきながら追加投資して残高を大きくするっていうのは基本的にやりにくい構造にはなっていると思います。
長南 銀行系のVCで今動いているのって、みずほグループや三菱グループ、三井住友グループ、あとは新生銀行グループが最近はかなり積極的に投資している印象があって、その他はリーマン・ショックを境にクローズしているとお聞きするのですが、そういう流れなんでしょうか。
桑園 他にもまたやろうかみたいな動きがあるような話も聞いています。CVC的にずっとやっていく必要があると長い目で見ている銀行はやめないけど、短期的なリターンとるぞと言っているところは、景気が悪くなったらやめて、また景気が良くなったらやり始めるっていうパターンでしょうか。 自分も銀行の時は2000万円、3000万円でずっと張り続けるみたいなのはなんとなくつまんなくなってきて、もうちょっとリスクをとった投資をしたいっていう風になってきました。同じ会社もシリーズAからDまで全部乗っちゃうとか、リードをとって大きく張っていくとか、そういうのをやる様になると、銀行系キャピタルっていう枠になかなかはまりにくくなっちゃうのかもしれない。
長南 例えば3億円集めようとしたところ、独立系だけで2億5000万円しか集まらなかったら銀行系が5000万出資してくれるというのがあるとお聞きしますが、そういうのは銀行としてはリーズナブルな投資と考えているんでしょうか。
桑園 リードは独立系がやって、銀行系に入ってくださいってお願いするというのは、それはそれでありなんでしょうね。銀行もあの独立系VCのこの案件には一つ噛んでおきたい、みたいなところもあると思うから。
長南 起業家をサポートしていく中で、投資前後の起業家とVCの付き合い方に変化はあるものでしょうか。桑園さんは笑いながらも一見ポーカーフェースで一定の距離を置きながら冷静に接しているようにも見えます。
桑園 昔、当時の上司にアーリーステージの会社の社長と飲みに行っちゃだめだと教えられました。というのは、情が移ったりして判断が冷静じゃなくなるとか、そういうことはファンドの出資者であるLPに対してどうなんだ、みたいな話をされました。確かにそういうのはあるなと思いつつ、意外とそういうことを言う人って、結構良い意味でウェットに投資していきますね。日頃の付き合いはあんまりべたべたしないんだけど、困ったときはちゃんとお金を出している、みたいな。
長南 逆に起業家とよく飲みに行く方もいるじゃないですか。あれはあれでたぶん人間観察していると思うのですが、どう思われますか。
桑園 投資する前に飲むって言うのはいいのかもしれない。ポロっと人間性出たりするから。投資した後は、俺と飲むぐらいだったら仕事した方が良いのではっていうスタンスだけど、定期的に誘ってくれる社長もいて、そういう人とは定期的に飲む人もいます。一種のメンタリングですかね。
長南 ベンチャーの起業家の人って夢いっぱいでまだ追い込まれていない段階だから、人格というか本性というか、現れにくい状態だと思うんですけれども、隠れた本質的なところはどこで評価されていますか。
桑園 銀行的な言い方をすると、バランスシートがある会社だと結構見やすい。当時の上司は、「バランスシートは社長の品格を表す」って言っていました。接待交際費の使い方とか、どういう商売の仕方をやっているかとか。銀行出身なのでそういうところから判断しながら、そういった質問をしてその人の本性を出すイメージでしょうか。銀行系出身としてはそこで足元をすくわれたくないなとは心の底で思っているのかもしれないです。 スタートアップで事業性が将来的に伸びると思っていたけど伸びなかったとか、それはもう仕方がないけど、決算書の「車両」ってなんだろうってよく見たらジャガーじゃん、みたいなそういう資金の使い方はちょっとどうかなって思います。
長南 社長の給料についてはどう見ていますか。ステージによるとは思いますが、低いほうが良いとか高いとだめとか、いくらぐらいがちょうどいいとかあるのでしょうか。
桑園 ステージにも確かによるけど、あんまり高いのはちょっと違和感あるね。