(2015/9 取材)
長南 投資金額が大きいがIPOは難しいという投資先の場合、クロージングの担当者を変える場合もあるじゃないですか。GCPは最後まで同じ人が担当する方針ですか。
今野 基本的には同じですね、最初から最後まで。
長南 それはやはりストレスフルですか。IPOせずにM&Aされたりとか、もしくは経営者と意見が違って「あともうちょっと」と言われる場合もあると思うんですけど。
今野 うーん、もちろんストレスフルな部分もありますけど、投資する時には自分でコミットして決裁を取ってますし。社内的にもむしろそこが一番キャピタリストとしての評価項目であるに近いので、それをやらないでどうするの、と考えています。ファンドとしてのリターンの下支えをするのは、そのままだとマイナスになってしまうものを1倍から2倍、3倍くらいまでどう持っていくかっていうところなんですよね。僕らの場合、M&AのEXITは、アドバイザーを介したりではなくてほとんど自分たちがオリジネーションしてるんですよ。そこが本当に下支えしてる。
長南 IPO以外のEXITの際に経営者に伝えているGCPのポリシーみたいなものってありますか。
今野 M&Aの場合、やっぱり買い手はコントロールが欲しいから、そうすると、株式の51%以上とか100%になるじゃないですか。そうすると、リターン論っていうよりも、M&Aに対する起業家のリテラシー論に近くて。で、そういう50億円を超えるM&Aも出てきて、起業家がどれだけ理解してくれるか、という話になるんですけど、やっぱりすごく難しい。M&Aのオファーってその会社が一番良い時に来ることが多く、当事者からすると、欲が出始める時にオファーが来るので一番難しい。ファンドの期限に関わらず、ですね。で、それを逃すともう後がない、という場合もある。一番難しいのは、そのタイミングだけを切り取れば良い会社なんだけど、この会社のセクターのライフサイクルは衰退しそう、でも業績は上がっている、そんな中でオファーが来ているっていう時に、リターンとか期限じゃなく本当に彼らにとって「これがベストな選択なんだ」って伝えるのが最も難しいですね。
長南 IPOを目指すのではなく、今売った方が良い、とはっきり言うんですか。
今野 言いますよ、売った方が良いって。でも、本当、そう簡単に伝わるものではないですけどね。
長南 そこで伝わらない場合、説得をしていくっていう感じになるわけですよね。その中で説得ポリシーみたいなものがもしあったらお聞かせいただけますか。
今野 大事なのは、それが起こり得る2年も3年も前からシナリオとして言っておくことです。今言ったように、出てきてからそれを言っても伝わらない。できれば、投資する時に伝えておく。それでも伝わるかは分からない。
長南 「まだもうちょっといける」っていうのがありますからね。
今野 顕在化した時なんて、「何でこんな良い時にそんなこと言うんですか、やっぱり投資家は恐いですね」って言われる。
長南 イメージ通りの強面ベンチャーキャピタリストみたくなるんですね(笑)
今野 本当に、本当にあなたのことを想って言ってるのに。今、例えば、利益、キャッシュフローが出ていて、ガラケーからスマホへ変わっていくという様な世界で今後売上が落ちていくのが分かっていても買いたいって言う買い手が現れて売るのは簡単っていう時でも、経営者が「うん」って言わない。
長南 経営者の中には自分の子どもだとか言うからですかね。 ただ、最近の若い起業家の方の中には起業時から会社売却前提でやってる人もいるじゃないですか。ひとつのことをひたすらやっていくような経営者がいなかったりもするんですよね。
今野 その場合の多くは1ケタ億円くらいのM&Aですね。そういう場合ではなくて、あと2年経てば上場もできるかもしれない。やっとブレイクイーブンしてきた。そこに例えば、20億円くらいのオファーが来たとする。僕からすると、ライフサイクルもあるし、市況から見ても2年後に公募20億円くらいになるかもしれない、みたいな。それで20億円なんかで上場したらもう大変ですよ。
長南 バリエーション上がらなかったらLPへのリターンのこともあるし、20億円くらいのバリエーションだと1億円近い上場コスト払う意味があるのかっていうこともありますね。
今野 事業にテコ入れしようとしても、フィジビリティーがないから買いが入らない。で、そういう場合ってやっぱり経営者は「上場できるのに何で?」みたいな。「だったら、もっとファイナンスして、もっと時間かけて、100億円にしよう」って言うんだけど、「それも嫌です」って言うから。
長南 それも嫌ですって言うんですか。
今野 早く上場したいから。「事業上のためにはパブリックカンパニーであることが大事です」って。もちろん全てのケースではなくて、全体として起業家の質は上がってきているのは間違いないですが。
長南 どうにかしなきゃいけない場合、どれだけ早くに先のことの、過去の事例も含めどれだけ、こうだったよ、って伝えて覚悟させておくか、あるかもしれないよ、ってちゃんと言っておくことがポリシーだってことですよね。
今野 穣氏IMANO MINORU
株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー, 最高執行責任者(COO)
2006年7月グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。 2012年7月同社パートナー就任。 2013年1月より、同社ジェネラルパートナーおよび最高執行責任者(COO)就任。 主な投資先に、ライフネット生命保険、ブイキューブ、みんなのウェディング、Quipper、スマートニュース、アカツキなどがある。 GCP入社以前は、経営コンサルティング会社にて、プロジェクトマネジャーとして、中期経営計画策定・PMI(Post Merger Integration)・営業オペレーション改革などのコンサルティング業務に従事。 東京大学法学部卒。