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2015/10/08

上場審査基準

各市場において、形式基準をクリアした会社に対して上場審査が行われます。その時の審査項目は、各市場において別途定められているものの内容に大きな違いはないため、IPOというと大半の会社が目指すと思われるマザーズ市場を例に記載します。

マザーズ市場の上場審査基準

(日本証券取引所ホームページ、有価証券上場規程第214条)

1.企業内容、リスク情報等の開示の適切性

企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことができる状況にあること。
(1) 重要事実の管理体制、インサイダー取引防止体制
(2) 企業内容適時開示体制
(3) 関連当事者取引の整備
(4) 親会社等との関係整備

2.企業経営の健全性

事業を公正かつ忠実に遂行していること。
(1) 不当利益供与
(2) 親族関係などの整備
(3) 親会社等からの独立性

3.企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性

コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度に応じて整備され、適切に機能していること。
(1) 役員の適正な職務執行体制の整備・運用
(2) 内部管理体制の整備・運用
(3) 内部管理体制維持の人員確保
(4) 適正な会計処理基準
(5) 法令順守体制の整備・運用、法令違反の可能性の排除

4.事業計画の合理性

当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること。
(1) 事業計画の適切な策定
(2) 事業計画を遂行する事業基盤の整備(見込)

5.その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項

(1) 株主等の権利内容など
(2) 重要な係争などがないこと
(3) 主要事業の継続可能性
(4) 反社会的勢力の排除
(5) 無議決権株式又は少ない株式
(6) 無議決権株式
(7) その他

審査項目は多岐に渡りますが、
スジュール的な優先項目と重要審査項目は、以下のとおりです。

スジュール的な優先項目

上場申請予定会社にとってIPOは初めてのことなので、メリハリをつけたスケジュール管理とToDoリストの濃淡をつけることができず、様々な人からのアドバイスにより右往左往してしまうことも多く見受けられます。その中で、過去からの経緯で整備することに思わぬ時間を要したり、人の感情を変化させたり落ち着かせたりすることにもそれなりの手数がかかることが見受けられるのは以下のとおりです。

(日本証券取引所ホームページ、有価証券上場規程第214条)

1(3)関連当事者取引の整備

関連当事者取引は独立企業間価格とは異なり透明性が十分に確保されない取引条件でのものである可能性があります。意図的に上場申請予定会社が関連当事者に便宜を図り利益を移転することは当然望ましいものではありません。また、関連当事者が上場申請予定会社の主要株主である場合などに関連当事者が上場申請予定会社に便宜を図り利益を移転させることにより、見せかけの利益を作り出すことも可能であり、望ましいものではありません。
直前々期の期首までに関連当事者取引はすべて解消することがBESTといえます。少なくとも、直前々期の期末までにはすべて解消することがBETTERといえます。唯一、経営者による借入金の個人連帯保証や事務所家賃の個人連帯保証など、相手先との関係でどうしても解消できないものは上場申請前で構いません。この場合でも、相手先には1年前くらいから会社のIPOスケジュールなどを共有し、できれば直前期の期末までの解消で依頼しておくことが必要と言えます。

1(4)親会社等との関係整備

親会社等が存在する企業において、親会社等が上場会社である場合には比較的説明はしやすいです。いわゆる、子会社上場の論点であり、海外ではあまり見かけないものの、日本では日立製作所、GMOなどのように子会社の独立性を促して積極的に子会社を上場させる方針の会社もあります。
親会社等が非上場会社である場合には、非上場の親会社等に利益が移転されたり、裏口上場として悪用される可能性があるため、取引条件の整備・運用が必要となります。
業績の期間比較可能性の観点からも直前々期の期首までに親会社等との関係を整備し、取引がある場合には、第三者取引価格と相違のないものと説明できる資料や外部専門家の意見などを準備しておく必要があります。これらが、準備できない場合には上場自体がSTOPすることになるため、早期に対応すべき項目の1つと言えます。

5(2)重要な係争などがないこと

重要な係争の例として、
・ビジネスにおける訴訟(特許侵害、商標侵害など)
・税務訴訟(移転価格税制、組織再編税制など)
税務調査において、重加算税の対象となった場合にはIPOすることできないという見解も聞きますが、重加算税の内容・金額・悪質性により、すべてがIPOすることに対してNGということはありません。
・労務訴訟(過労死、パワハラ、セクハラなど)

いずれのケースにおいても、上場申請時に未解決であることは望ましくなく、早期の妥結を目指すことがBESTです。特に、相手方が上場申請予定会社がIPOを目指していることを知った場合には、足元を見て訴訟自体が不利になるケースも想定されます。
上場申請時に重要な係争などが存在する場合には、上場申請を行うことができないか、リスク情報に詳細開示を行うことになります。最近の傾向では、余程の重要な係争などでない限り、リスク情報として開示をすれば足りている事例が見受けられます。

重要審査項目

上場申請予定会社にとって、重要なのは上場申請して上場承認を得ることも重要ですが、上場後にいかに継続的に成長し、株主・一般投資家をはじめとする会社のステークホルダーの期待に応えるかということにあるのは、言うまでもありません。特に、非上場会社から上場会社になるということは、単に証券取引所の鐘を鳴らして株価ボードに会社名が載るというだけでなく、会社と関係する人々が圧倒的に増加すること、個人の感情を爆発させる個人投資家とプロの資金運用者である機関投資家などを相手にするということで各段にステージが上がるため、きちんとした対応が必要となります。

1(2)企業内容適時開示体制

上場後には、四半期ごとに決算短信、有価証券報告書などの開示書類を提出することになります。提出期限が守られない場合には、上場廃止となる可能性もあり、上場企業としては最低限守らなくてはいけない項目となります。上場申請までは過去の実績の取りまとめが中心となっていましたが、業績等における予算と実績の分析や上方・下方修正の要否など、株価に重要な影響を及ぼす将来予測が特に重要となります。また、各種適時開示体制を整備するために、上場申請時点で外部の広報支援会社を利用したり、広報のプロを採用するケースも見受けられます。

4(1)事業計画の適切な策定

業績等における予算と実績の分析などと共に、今後3年間の裏付けのある事業計画の策定が重要となります。証券取引所としては将来の成長性の確認のために重要な項目であり、主幹事証券会社にとしては上場申請予定会社の公募・売出価格を決定し、資金使途・金額とリンクすることとなります。日本では事業計画の上場申請時に監査法人が数値のチェックを行う制度はありませんが、シンガポールなどの国では監査法人による数値のチェックが必須となっている制度も存在しています。

この2つを達成するために、「3.企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」が担保されていることは言うまでもありません。

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