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2015/10/08

売上高−売上高かそれ以外か

「2020年売上高5兆円」 ― 柳井正 ファーストリテイリング 代表取締役会長
「2040年時価総額200兆円」 ― 孫正義 ソフトバンク 代表取締役社長

経営者は具体的な数字で自らの目標を語ります。経営者としてのコミットメントとして、社員の目標として、一般投資家が企業規模の図る尺度としての「売上高」について考えてみます。

1. 売上高の意味

トヨタ自動車の27.2兆円(2015年3月期)をはじめ、日本の上場企業の約150社で売上高が1兆円を超えています。これらの会社のビジネスに対して、1年間に顧客がそれだけのお金を払った、その会社が世の中に提供している製品・サービスに対して流通したお金の総額という見方ができます。
売上高は、いわゆる「本業」から得られる収益のことですが、見る人によって様々な意味を持ちます。例えば、金融機関から融資を受ける際の目安として「毎月の売上高の〇分の1までなら返済可能」、就職先を選ぶ際の目安として「従業員一人当たり売上高〇百万円の優良企業」といった使い方がされます。
会社の規模や信用力を評価する基準として、多くの人が売上高を意識しているのではないでしょうか。特に、売上高の推移は、ビジネスの将来性や企業としての安定性を考える上で、最も分かりやすい重要な指標となります。

2. ベンチャー企業における売上高

新興市場(成長性を重視して上場基準を緩和した、主にベンチャー企業向けの株式市場)の代表格である東京証券取引所(以下、「東証」とします)マザーズ市場では、「高い成長可能性」を重視しています。この成長可能性を語る際に、売上高の持続的な拡大をイメージすることが多いと思います。IPO企業の規模比較として、マザーズ市場では売上高18億円が中央値(2010~2014年)という統計があり(以下のリンクを参照)、まずはこの数字を上場の目安として考えることになります。なお、東証の本則市場に直接上場するような場合では、過年度の実績も重視されるため、直近1年間の売上高100億円以上という要件が課されます。

「日本取引所グループ」HP
http://www.jpx.co.jp/equities/listing-on-tse/new/basic/index.html

(参考)東証に上場する際の形式要件(一部抜粋)

本則市場
マザーズ
JASDAQ
スタンダード
JASDAQ
グロース
利益の額又は時価総額
(利益の額については、連結経常利益金額)
次のa又はbに適合することa.最近2年間の利益の額の総額が5億円以上であることb.時価総額が500億円以上(最近1年間における売上高が100億円未満である場合を除く)
次のa又はbに適合すること a.最近1年間の利益の額が1億円以上であることb.時価総額が50億円以上
  • 利益の額又は時価総額
    (利益の額については、連結経常利益金額)
  • 本則市場
    次のa又はbに適合することa.最近2年間の利益の額の総額が5億円以上であることb.時価総額が500億円以上(最近1年間における売上高が100億円未満である場合を除く)
  • マザーズ
  • JASDAQ
    スタンダード
    次のa又はbに適合すること a.最近1年間の利益の額が1億円以上であることb.時価総額が50億円以上
  • JASDAQ
    グロース

3. 売上高か営業外収益か

トヨタ自動車を例にとると、売上高27.2兆円(2015年3月期)の内訳は、商品・製品売上高25.6兆円と金融収益1.6兆円です。顧客が自動車を27.2兆円買ったというイメージを持ちそうですが、実際には1.6兆円は自動車ローン等の金融事業から得た収益ということです。商品・製品売上高といっても、各地方の販売店に卸売している場合には、個人の顧客が支払ったお金と同額ではないことも考えられます。また、金融収益が売上高?という疑問を持つかもしれませんが、トヨタ自動車の定款(会社における憲法のようなものとされ、会社の基本原則を定めたもの)には、以下のように金融事業が事業目的として記載されており、「本業」として金融収益は売上高に計上されているのです。

第 2 条 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。
(1) 自動車、産業車両、船舶、航空機、その他の輸送用機器および宇宙機器ならびにその部分品の製造・販売・賃貸・修理
・・・(中略)・・・
(13) クレジットカード業、証券業、投資顧問業、投資信託委託業
・・・(中略)・・・
(19) 前各号に付帯関連するいっさいの業務


売上高以外の経常的な収益として「営業外収益」があり、一般の事業会社では受取利息、受取配当金、有価証券売却益などが該当します。しかしながら、持株会社(ホールディング)が子会社から配当金を受け取ることは子会社管理を行うことを事業としているため「本業」と考えられ、ベンチャーキャピタルなどの投資会社が営業有価証券を売却することも資産運用を営むことにより収益をあげることをじぎょうとしているため「本業」と言えます。したがって、これらの会社は受取配当金や有価証券売却によって得られた収益を売上高に計上しています。
もちろん、いくら定款に記載してあっても「本業」とは言い難い内容の収益を売上高に計上することは妥当な会計処理とは考えられません。企業が新たにビジネスや取引を開始するにあたっての収益の計上区分は慎重に検討する必要があります。特に、IPOにおける上場審査の過程では、なぜその区分にしたのかを十分な根拠をもって説明することが求められます。

最後に、一度決定した収益の計上区分を事後的に変更する会計実務は以下の通りです。収益の計上区分はいつでも自由に変更できるものではありませんが、会計基準の改正等の合理的な理由がある場合、取引の重要性が高まった場合など限定的に変更が可能な場合が考えられます。
以下は、従来、営業外収益として会計処理していた受取賃貸料などを売上高に変更した後者の一例です(一般の事業会社で収益の計上区分にバラつきがある代表例である「不動産賃貸」に関するもの)。
このほか、不動産会社が保有する賃貸用不動産(投資その他の資産)を販売用不動産(棚卸資産)に振り替えることも考えられます。この影響で、従来、営業外損益として賃貸収入と賃貸原価を会計処理していたのですが、売上高と売上原価として計上することは理論上可能となります。

ビックカメラ(2015年8月期(第1四半期))

表示方法の変更
(受取賃貸料及び広告料収入に係る表示方法の変更)
店舗施設のテナントに対する賃貸取引について、従来、営業外収益及び営業外費用の「その他」に計上しておりました受取賃貸料及び賃貸収入原価は、当第1四半期連結会計期間より「売上高」及び「売上原価」に計上する方法に変更しております。さらに、営業外収益の「その他」に計上しておりました広告料収入は、当第1四半期連結会計期間より「売上高」に計上し、これに直接対応する費用部分を「売上原価」として計上する方法に変更しております。
この変更は、既存の店舗施設の有効活用の重要性が増してきたことに伴い、店舗施設を物品販売の拠点としてのみならず、テナントへの不動産受取賃貸料及び広告料収入等を含めた店舗ごとの収益性をより詳細に管理することとなり、その実態をより適切に表示するために行ったものであります。(以下、略)

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