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2015/10/01

IPOを達成するための実際のハードルは?

IPOにおいては、上場審査の形式基準と実質基準が存在することは知られていますが、実際には証券取引所と主幹事証券会社はどのような目線やハードルによって審査を行っているのでしょうか。

証券取引所の審査

証券取引所の審査

証券取引所の審査は、3か月程度の上場審査期間で上場申請会社の本質を見抜かなくてはいけません。 その審査の内容は多岐に渡るものの、一般投資家に1つの銘柄として提供して良いのかという視点から行われます。 したがって、社会や常識が変われば、上場審査のモノサシにも影響を与えます。 たとえば、消費者ローンのグレー金利が問題となれば、関連する業界への上場審査は当然厳しいものとなり、 英会話業界や美容業界における前受チケット制について消費者庁などへのクレームが増加し社会問題化すると、 関連する業界への上場審査を当然厳しくするといった格好です。

最近では、ネットビジネスのようにビジネスのスピードに法改正などが追いついていないケースも目立つようになり、 一般社会には広く浸透しているサービスであっても法で定められていない場合については、 上場審査でもモノサシがない故に柔軟に判断しなくてはいけない事例も出始めています。

設立から十分な時間が経過し、ビジネスとしても広く一般の人々に浸透しているものであれば、特筆すべき問題のない上場申請会社であれば

  • 上場申請会社の行うビジネスが一般社会において広く受け入れられるものであるか?
  • 上場申請会社のレピュテーションに問題はないか?
  • 商取引の契約上、上場申請会社に何か不利益なものや異常なものはないか?
  • 売上取引や仕入取引などが特定の企業に偏っていたり、ビジネス上の事業継続のリスクはないか?
  • 関連当事者との取引の存在の有無及び経済合理性・妥当性
  • いわゆる労働条件においてブラック企業ではないか?
  • 経営者のレピュテーションに問題がないか?
  • 株主に反社会的勢力、反市場勢力などは存在しないか?

というその企業及び経営者の誠実性について上場審査のポイントが置かれます。 証券取引所には上場を推進する部署が設けられており、IPOを考え始めたときに、自分の会社がIPOするに足る会社であるか、IPOすることが出来るビジネスであるかなどを事前に相談できるので、積極的に活用すべきと考えます。

主幹事証券会社の審査

主幹事証券会社の審査

主幹事証券会社の審査は、上場申請予定会社が実際に上場申請を行う9ヶ月〜1年前くらいから審査部署により行われます 。しかし、審査部署の審査までにたどり着くにはいくつかの部署の担当者等とのコミュニケーションが必要となります。
主幹事証券社との密な関係は、IPOに関する主幹事証券会社の委任を依頼する宣誓書であるマンデート(Mandate)を営業部署と交わしてからスタートします。証券会社の営業部署は各営業担当者にある程度のノルマが課されていることが多いため、反社会的勢力などでない限り宣誓書は交わされることが多いと言われています。
その後、ある一定の企業については証券アナリストによる上場申請予定会社の将来のビジネスの成長性などを取りまとめたレポートの提出が行われ、中期経営計画の策定や資本政策の提案などが行われます。

通常では、直前々期が開始した頃から審査部に引き渡す前に上場申請予定会社の形式審査及び実質審査の事前作業を行う公開引受部署の作業がスタートします。証券会社のフィーはこの公開引受部署が関与してから年額500万円程度で発生することになります。証券会社の担当部署で最も長く付き合いが行われることになり、この主幹事証券会社の担当者の巡り合わせや指名が後々揉め事を起こさないために重要な選定となります。公開引受部署が関与するということは、主幹事証券会社として一般投資家に販売できる「魅力のある銘柄」であるという一定のハードルを越えたことを意味します。この各主幹事証券会社が設けている一定のハードルについては、上場申請予定会社の在庫の数や経済環境により上下することになります。また、「魅力ある銘柄」には、十分な業績を示すだけでなく、 いわゆる旬であることが求められる場合もあります。賛否両論はあるかと思いますが、旬であれば、上場申請会社のエクイティストーリーを魅力あるものとして説得力のある説明を行うことが可能となり、十分なバリエーションをつけることができやすいからとも言われています。公募による資金調達や創業者などの売出を行う上場申請会社にとっても、公募・売出に伴う手数料を受領する主幹事証券会社にとっても、証券会社にも理解されやすい形になっているとも考えられます。

公開引受部署のチェックが終わるとこれまでの部署とは独立性を保たれた審査部署へ移管されることになります。通常、審査部署の担当者は上場申請予定会社から選定することはできないため、公開引受部署に説明した内容を再度説明するというプロセスが生まれることが多いです。ここで公開引受部署と審査部署においては、ヒトの行き来があることが多く、公開引受部署で評価されている担当者に恵まれるとその後の審査部署の審査が円滑にいく可能性が高まります。

審査部署の担当者レベルの審査が終了し、その上場申請予定会社をIPOする会社として証券取引所に推薦すべきか否かについて、主幹事証券会社の社内の銘柄(上場申請予定会社)審査会で承認を得ると、証券取引所に上場申請会社として上場申請されることになります。
証券取引所の上場承認を得た後に、2週間に及ぶ1日5社程度の機関投資家を巡る日程が組まれます。ここでは、主幹事証券会社がある程度ロジカルに計算された公募・売出の想定価格を提示し、機関投資家の値入れの状況により最終決定されるというプロセスを踏みます。この2週間は上場申請会社の経営者とCFOに主幹事証券会社の営業部署の担当者が張り付くこととなります。公募・売出の想定価格については、営業担当部署などの上場申請会社が如何に魅力的な会社であるかという社内説明の努力なども加味して決定されるようであり、営業担当部署の取締役・執行役員や担当者との継続的な信頼関係も重要といえます。ここでも、営業部署で評価されている担当者に恵まれると主幹事証券会社内での円滑なコミュニケーションが図られるようです。

IPO達成の数値的なハードルは?

IPO達成の数値的なハードルは、業種、業態、成長性、日経平均株価により異なりますが、 一般的には直前期の営業利益が1つの目安となり、例外的には申請期の予想営業利益も1つの目安となります。
各業種ごとの目安と思われる営業利益は以下の通りです。

製造業、流通業:5億円以上
サービス業(IT除く):3億円以上
IT関連サービス業:2億円
バイオ業:赤字でも成長性次第

日経平均株価が堅調な時期などについては、直前期の数値だけではなく、直前期の第3四半期から申請期の第2四半期までの業績の動きが堅調であるならば、 申請期の予想営業利益が前倒しで評価されることもあります。最近では、PSR(Price to Sale Ratio)と呼ばれる売上高に対する時価総額の倍率を用いることもあり、 直前期の数値を基準にしたり、申請期や申請翌期などの数値を基準にしたりすることもあるようです。

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