2016/03/15
「減損」という言葉を聞いてどのようなことを思い浮かべるでしょうか。投資の失敗というイメージを持つことが多いかと思いますが、今回はこの「減損」について考えてみることにします。
減損は一時的に巨額な損失を与える項目(特別損失)の代表例です。住友商事株式会社は平成27年3月期に3,100億円の減損損失を計上し、16年ぶりの赤字に転落しました。当初は2,500億円の黒字を見込んでいたものの、資源価格の大幅な下落に伴って海外で巨額の減損損失を計上した結果、最終的に700億円の赤字となりました。 その他の総合商社各社においても、資源価格の下落により1,000億円規模の減損損失が計上されています。このうち丸紅株式会社は1,500億円の減損損失を計上していますが、2年前に買収した米国穀物大手のガビロン社買収時に発生したのれん(当初1,000億円)の一部である480億円が含まれており、同社の業績が当初の事業計画を下回る見込みとなったため、のれんの帳簿価額を減額したものです。
減損リスクのある資産を多く保有している会社では、経営環境が悪化すると追い打ちをかけるように多額の減損損失の計上を余儀なくされる可能性があります。事業上の必要性が最優先であることは勿論ですが、ある程度のリスクを取ったビジネスジャッジで積極的な投資を行う場合には、このような事態も想定して投資を実行する必要があります。
そもそもどのような場合に減損が必要となるのかについて触れていきます。
@ 対象となる資産 土地や建物といった不動産や機械装置などの有形資産だけでなく、ソフトウェアやのれんといった無形資産も減損会計の対象になります。その他、経営破綻したスカイマーク株式会社はコスト削減のためにエアバスA330型機のリース契約を解除して多額の減損損失を計上しましたが、これはリース契約であっても契約条件次第で会計上はリース資産としてオンバランスされることから、減損の対象となったものです。 装置産業であるメーカーや店舗を多く抱える小売業者では有形資産、設備投資の少ないインターネットビジネス関連の企業では無形資産の減損が多くなり、M&Aを多く行う企業はのれん(無形資産)の減損が多くなります。
なお、株式についても、評価損を計上する際に一般的には減損という表現を用いりますが、減損会計は固定資産を対象にしているため、正式には株式は減損会計の対象外となります。これは、事業用資産である固定資産と金融資産である株式はそれぞれ投資目的(=投資回収手段)が異なり、別の会計基準を設けて異なる評価方法を定めていることによります。
A 減損の流れ 【 Step 1 : 資産のグルーピング 】 工場の中にある1つの機械装置を思い浮かべるとわかり易いのですが、会社の保有する固定資産は単独でキャッシュ・フローを生むことが少なく、例えば、ある製品ラインに属する機械装置群あるいは工場全体でまとまったキャッシュ・フローを生むことになります(正確に言うと、機械装置群や工場自体もそれだけで直接的にキャッシュを生むわけではないので、さらに営業所等も含める必要があります)。 次に、小売業における店舗の進出や撤退に関する意思決定を考えてみます。商圏の重ならない離れた地域に出店する場合は1店舗ごとに採算を考えますが、1つのエリアに集中的に出店してシェアを獲得するドミナント戦略では、複数の店舗群での採算を考えるはずです。ドミナント戦略はチェーンストアでよく見られる戦略ですが、同一商圏内の顧客を自社の店舗で奪い合うと考えることができます(ある店舗を顧客が利用すれば、別の店舗はその顧客を奪われて売上が減る)。また、同戦略は1つのエリアに複数店舗を集中させることで物流コストを下げる狙いもありますが、ある店舗が撤退すれば別の店舗の店舗当たりコストが相対的に上がってしまうことになります。このような場合に1店舗ごとの採算だけ見ても意味がなく、店舗群を1つの資産グループとして捉えることが合理的な場合もあります。 このように、資産のグルーピングは、経営判断として投資(購入だけでなく自社製作を含む)を検討する範囲と一致することが多くなります。資産のグルーピングについては、第一義的には会社が判断すべきものですが、実務的には監査法人のパートナーなどに会社のビジネスを正しく理解してもらい、共通認識の下に決定することが必要となります。
以下、事例をいくつかご紹介します(有価証券報告書より)。
株式会社サイバーエージェント(平成27年9月期)
当社グループは減損会計の適用にあたり、事業単位を基準とした管理会計上の区分に従って資産グルーピングを行っております(※)。
(※)Ameba事業、ゲーム事業、インターネット広告事業及びメディアその他事業の一部のサービスについて、当該事業に係る資産グループについて減損損失を認識しています。
株式会社学研ホールディングス(平成27年9月期)
当社グループは管理会計の区分をもとに、概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位によって資産のグルーピングを行っております。教室・塾事業は校舎単位、出版事業は事業部単位、高齢者福祉・子育て支援事業は事業所・園単位によっております。
【 Step 2 : 減損の兆候 】 減損の手続きは非常に煩雑であるため、減損の可能性が高い場合にのみ詳細に検討するステップ(後述するStep3)に進むようにしています。詳細な検討に進む状況の例示として、会計基準には以下の4つの状況が挙げられています。
実務上多いのは、店舗や事業の赤字が続いている状況、資産の保有目的の変更、売却や除却の意思決定を理由に減損に至る場合です。想定外の減損が発生することは避けるべきであるため、管理部門と連携してモニタリングすべき項目(起こりうる状況)を明確にしておく必要があります。以下は、「資産の保有目的の変更」の事例です(有価証券報告書より)。
株式会社大林組(平成26年3月期)
【 Step 3 : 減損の認識 】 Step2に該当した場合には、実際に減損する必要があるかどうかを詳細に検討していきます。この際、資産グループから得られる将来キャッシュ・フローと現時点の帳簿価額を比較することによって、回収が見込めないと判断されれば減損を認識することになります。ここで注意が必要なのは、減損の判断はあくまでも「現時点から見た将来のキャッシュ・フロー」で判断されるということです。例として、10億円の設備投資を5年で均等償却(毎年2億円の償却)し、投資後3年時点で何らかの減損の兆候があった場合を考えます。減損検討時の帳簿価額が4億円(10億円−2億円×3年)であるため、残り2年の将来キャッシュ・フローが仮に1億円だとすると、減損損失を計上することになります。ここで、当初3年間で10億円のキャッシュ・フローが既に得られているとします。この場合、設備を使用する5年間の合計では11億円のキャッシュ・フローとなり、10億円の投資額は回収できているように思えますが、減損会計では将来の投資回収のみを考えるため、このような結果となります。