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2015/12/25

売上高−グロス計上かネット計上か

売上高の計上時期が決まったら、次に売上高をいくらで計上するか検討します。同じ取引であっても時には10倍以上の違いとなることもあり、会社の規模感や信用力に対するイメージは全く違ったものになってきます。

1. グロスとネット

実務上、売上高の検討事項として頻繁に挙がるのが「グロス計上(以下、「グロス」)かネット計上(以下、「ネット」)か」です。「グロス」は総額表示のことであり、一般的には販売先への「販売価格」で売上高を計上する方法です。一方、「ネット」は純額表示のことであり、一般的には「販売価格」から仕入先への「仕入価格」を控除した「販売利益」を売上高として計上する方法です。一般的には、取引の当事者(本人)となっている場合にはグロスで表示し、取引の代理人となっている場合にはネットで表示することが多いです。同じ取引内容であっても日本基準ではグロス、IFRS(International Financial Reporting Standards、国際財務報告基準)ではネットとなることが多く、同業他社との比較においてその違いを理解しておく必要があります。実際のビジネスにおいては、以下のように自社を取り巻く複数の企業との間で取引が行われており、各社が果たしている役割や負っているリスクを理解し、各業界の商慣習も踏まえた実態判断が求められます。

製造業の流れ
製造業の流れ

仲介業の流れ
仲介業の流れ

グロスとネットを決定する際には、一般的に以下のような視点で、それぞれの条件に当てはめて総合的に判断します。取引において重要な役割を果たしていて、高リスク高リターンの状況にある程、グロスの要素が強くなると言えます。

  • 顧客に対する運営責任
  • 取引先選定、取引量決定及び価格決定に関する裁量権
  • 在庫リスク及び信用リスクの負担
  • 付加価値の内容
  • 取り分の算定式(変動か固定か、分配割合)

2. 代表的な業界

@ 商社
日本特有の販売形態で発展した総合商社から専門商社まで、日本には数多くの商社があります。大手総合商社が投資会社として莫大な利益を得たことは記憶に新しいですが、伝統的な機能として、商社はいわゆる「口銭商売」を行っています。「口銭」とは手数料のことであり、商社はその取引関係やノウハウなどの強みを生かして取引を仲介します。日本基準では慣習として総取扱高を売上高と表示していたものが、IFRSでは手数料部分しか売上高として表示できなくなった結果、最大手の三菱商事鰍ナは平成26年3月期の売上高(日本基準)21.9兆円に対して、売上高(IFRS)7.6兆円と大幅に減少しています。

三菱商事梶i平成26年3月期(IFRS))

重要な会計方針(収益)(一部抜粋)

連結会社は、製品及び商品の販売において、契約の主たる義務者として、客先から発注を受ける前の一般的な在庫リスク等を負担して販売を実施した場合は、収益を総額で連結損益計算書上に計上しています。また、役務の提供において、契約の主たる義務者として取引の重要なリスクを負っている場合は、収益を総額で連結損益計算書上に計上しています。製品及び商品の販売、役務の提供ともに、代理人として取引を行った場合には、収益を純額で連結損益計算書上に計上しています。

A 仲介業者、代理店業者
不動産の売買や賃貸を仲介する不動産業者、広告枠を売りたいメディアと広告を出したい広告主を結び付ける広告代理店、個人あるいは企業を対象にユーザー同士が取引を行う場を提供するプラットフォーム運営業者など、世の中には様々な仲介業者が存在します。これら仲介業者は名前のイメージからすると、いかにも間を通しているだけという気がしますが、実際には各社の果たす役割や負っているリスクは様々です。
不動産取引業において、売り手と買い手を繋ぐだけの場合もあれば、不動産を購入して在庫として保有し、リスクを負担する場合もあります。不動産賃貸業においても、貸し手から借り手に転貸するだけの場合もあれば、一棟買いや空室に係る賃料保証によって空室リスクを負担する場合もあります。また、広告代理店においても、単に広告主の代理で広告出稿枠を確保するだけでなく、自社で広告枠を事前に低価格かつ大量に買い付けて広告主に販売することもあり、この場合には広告枠の在庫リスクを負っています。
鞄d通は平成27年3月期の売上高2.4兆円(日本基準)に対して、売上高(IFRS)0.7兆円となりました。なお、鞄d通は「顧客に対して行った請求額及び顧客に対する請求可能額の総額」は有用な開示情報であるとし、その金額は4.6兆円と自主的に開示しています。

鞄d通(平成27年3月期(IFRS))

重要な会計方針(収益)(一部抜粋)

当社グループの収益の内訳は、主に各種メディアへの広告出稿によって得られる手数料、およびクリエーティブ・サービスを含む広告制作や各種コンテンツサービス等サービスの提供に対する広告主等からの報酬であります。
広告制作やその他の広告サービスによる収益は、当社グループがこれらサービスに対する報酬として広告主およびその他のクライアントから受領する対価から原価を控除した純額、あるいは定額または一定の報酬対価により計上しております。(中略)なお、広告業以外の事業に係る取引は収益および原価を総額表示しております。

その他、プラットフォーム運営業者の代表例である楽天鰍潛FRS導入企業ではありますが、平成24年12月期の売上高(日本基準)4,434億円と売上高(IFRS)4,004億円を比較すると、その差は小さいことが分かります。同社はインターネット・ショッピングモール「楽天市場」において、売上高(IFRS)1,137億円であったことを決算説明資料にて開示していますが、同市場における流通総額は1兆円を突破していることをプレスリリースにて開示しており、手数料部分を売上高に計上していることが伺えます。

B 百貨店
経営統合が盛んに行われている百貨店ですが、日本独自の商慣習として「消化仕入」というものがあります。百貨店内のテナントにおいて商品が販売された時にその商品を仕入れたとするもので、小売業者である百貨店は在庫リスクを製造業者や卸売業者に残しておくことができます。商社と同様に慣習として総取扱高を売上高と表示している場合が多いですが、商品の仕入量(在庫量)や価格決定に関する裁量は少なく、場貸しに過ぎないと見ることもできます。このような場合には、IFRSを適用した結果、手数料部分のみを売上高に計上することになると考えられます。

C 間接税の納税義務者
軽減税率を巡る議論が進行中の消費税をはじめ、日本では酒税やたばこ税といった多くの間接税が導入されています。間接税は納税義務者と税負担者が異なる税金であり、税負担者から受け取った税金を納税義務者が課税当局に納付します。消費税は一般的に税抜きで経理処理を行うことで売上高を構成しませんが、その他の間接税は税金部分を区分処理することが事務処理上煩雑であるという理由から、日本基準では売上高に含めていることが多いです。一方、IFRSでは、納税義務者は間接税を税負担者から預かって代理で納付しているに過ぎないという理由から、売上高に含めません。なお、日本たばこ産業鰍ナは、平成23年3月期の売上高(日本基準)6.1兆円に対して、売上高(IFRS)2.0兆円と大きな差が生じることを開示しており、たばこの販売価格に含まれる税金の割合が消費税を除いても5割超と非常に大きいことがよくわかります(※)。

(※)たばこの税負担内訳(参考)
http://www.jti.co.jp/tobacco-world/journal/tax/futan/index.html

3. ベンチャー企業にとっての売上計上基準

ベンチャー企業であっても、売上高をグロスにするかネットにするかについては重要な関心事と言えます。監査法人だけでなく、主幹事証券会社、証券取引所、財務局などの関係機関にも理解してもらい、一般投資家の方々にも分かりやすい計上基準とする必要があります。IPO企業の規模比較として、各市場における売上高が参考値として「日本取引所グループ」のHPで公表されていること、東証の本則市場に直接上場するような場合では直近1年間の売上高100億円以上という要件が課されていること、赤字上場である場合等はPERでなくPSRを参考にして企業価値を評価することなどもあることを考慮すると、経営者にとって関心の高い項目と言えます。一方、グロスであってもネットであっても最終的な利益額が変わるわけではなく、ネットはグロスよりも売上高が少なくなる代わりに利益率が高くなりますので、収益性の高さを印象付けることができます。
上場審査の過程では、グロスかネットかの決定過程について説明が求められ、また、取引規模が大きくなってから変更することは難しいことから、早期の検討を行うことでスムーズに上場準備を進めることが可能となります。

  
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