2015/10/01
未上場企業の資本政策は、従前から相続事業承継対策のものから始まり、 財団スキーム、従業員持株会の活用、分離型新株引受権付社債の活用、 ストックオプション(SO)制度の導入などがありました。これらについては、一般的には普通株式を前提としたものでした。
資本政策について、株式の譲渡などの価格であるいわゆる「時価」について論点となることが多いです。 時価の概念について、いくつかの目安となるものはありますが、 証券取引所を介す一般的な相対での第三者間での合意された価格が本来の価格決定の姿です。 いくつかの目安としては、法人税法、所得税法、相続税法(財産評価基本通達)があります。 相続税(贈与含む)については、財産評価基本通達が相続時及び贈与時の財産の評価の基準となるものであり、これ以外には計算のしようがありません。 しかしながら、法人税法と所得税法においては、新株式発行、自己株式取得、株式譲渡などがあり、 同族関係者間での取引でない場合には、株式の価格については財産評価基本通達に従う必要はないものの、 第三者評価を入手するなど実務上は留意すべき項目があります。 実務上用いられる株式の価格については、純資産価額を基準として、 類似業種比準方式による価額、類似会社比準方式による価額、DCF法による価額などがありますが、直前々期首以前における取引価格などについては「新株式発行並びに株式売出届出目論見書」の株式公開情報の開示対象外であることから、法人税法などの規定をクリアすれば問題される可能性は少なく、また、経営者から少数株主の同族関係者に該当しない者への移動であれば配当還元方式による価額や純資産価額であっても問題とされる可能性は少ないです。経営者から従業員に対する贈与については、純資産価額を基準に譲受者1人当たり非課税限度額110万円以下であれば課税されることはありません。 一方で、株式公開情報の開示の対象となる直前々期首以降については、法人税法などの規定をクリアするだけではなく、エクイティストーリーにある程度沿った形での株式の価格とすることが求められます。
ストックオプションについては、税制非適格SO、税制適格SO、有償SO、株式報酬型SOなどがありますが、付与される個人の課税関係及び発行会社の課税関係は以下の通りです。SOというと、社長などの経営者以外の取締役と従業員を対象として発行するスキームが多いですが、非上場企業の経営者の持株比率調整、上場後の取締役の成功報酬型などにも対応したSOの活用も検討の1つとなっています。
(個人の課税関係)
(発行会社の課税関係)
未上場企業が発行する種類株式に関する研究会報告書(経済産業省、平成23年11月)公表前後から、 アメリカでは以前から広く活用されていた種類株式が日本でも本格的に利用されることになりました。 それまでは種類株式は10%程度の活用のイメージでしたが、 2013年以降のベンチャーキャピタルによる株式投資を見ると大半が残余財産分配請求権や参加権などが付与された種類株式となっています。 種類株式の活用により、ベンチャー企業側はより多額の資金調達が可能となり、ベンチャーキャピタル側はリスクヘッジが可能となりました。 日本のベンチャーファイナンス環境については、アメリカとは10〜20年以上の差があると言われていましたが、ここ数年でキャッチアップしつつあります。 普通株式と種類株式の株価の比較について、いわゆる「10倍ルール」というものがあり、アメリカではケースバイケースですが、SECなどによりIPO直前において株価の是正が行われることもあるようです。
種類株式の発行にあたり必ずと言って良い程付与される残余財産分配権は、投資額に対してスタンダードが1倍、稀に1.2倍や2倍の条件設定が見られます。1倍であれば、1億円の投資額に対しては会社清算時に優先的に1億円分種類株式を保有する株主に保証されます。株主側としては、増資後に資本金をすべて食いつぶす前に事業を停止する場合等も想定しリスクヘッジの観点から優先的残余財産分配請求権を確保しておくことは重要となります。一方で経営者側としては、必要以上に不利な倍率設定とならない様、各種の条件とのバランス次第ですが、「残余財産分配請求権のスタンダードは1倍」と押さえておくと良いかと思います。
残余財産に関する優先権については、参加権の内容も極めて重要となります。IPOによるExitの場合は、優先株式は上場申請前にすべて普通株式に転換されるため残余財産に関する優先権は消滅します。一方でM&Aの場合は、優先株式は普通株式には転換されないため、優先株主への分配が終わった後の残額について普通株主と同順位での分配を保有株式数に応じて受ける権利である参加権の有無が重要となります。参加型が株主側にとって有利であり、非参加型が経営者側にとって有利となるため、交渉の結果、参加権を認めるケースも少なくありません。
残余財産分配請求権においては少なくても「倍率」「参加型or非参加型」の2点を留意すべきポイントと言えます。