2015/10/16
平成27年5月1日から改正会社法(平成26年改正法)が施行され、当該改正においては、取締役・監査役の社外性の要件強化、有価証券報告書の提出義務のある株式会社において社外取締役が存在しない場合の定時株主総会における説明義務(社外取締役を置くことが相当でない理由の説明)など、コーポレート・ガバナンス強化に関連する改正が行われています。そしてこれらの改正と共に、従前の監査役会設置会社、委員会設置会社(改正後の「指名委員会等設置会社」)に並ぶ新たな機関設計として監査等委員会設置会社の制度が導入されています。そこで以下では、これら監査に係る機関の概要について比較検討したいと思います。
監査等委員会設置会社については、敢えて言うなれば「監査役会設置会社と指名委員会等設置会社との中間」という捉え方がイメージしやすいように思われます(当然ながら、各制度の詳細については異同がありますが、ここでは詳細については割愛させていただきます)。下記にもあります通り、監査役会設置会社は、監査役会と取締役会が別もの、指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社は、取締役会の中に監査委員会・監査等委員会が設置されているものの、指名委員会等設置会社では、取締役の人事・報酬に係る決定の透明性・客観性を高めるため、各委員会の過半数を社外取締役とする一方、監査等委員会設置会社では、過半数の社外取締役が必要とされるのは監査等委員会だけで、設置される委員会もひとつという違いがあります。 各機関における主要な職務の内容についても、
となっており、指名委員会等設置会社における指名委員会・報酬委員会の取締役の選解任(株主総会の決議=選解任議案の内容は指名委員会が決定)・報酬に関する決定に関し、監査等委員会では、株主総会での意見陳述権という形での関与となっており、ここでも監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の中間的なものと言うことができます。
株式会社は、基本的に定款の定めにより、各機関の設計・構成を取ることができます(会社法326条2項)。以下、それぞれの機関についての設置要件等を比較します。
監査役会設置会社(監査役会)
監査等委員会設置会社(監査等委員会)
指名委員会等設置会社(監査委員会)
上記イメージ図や各機関の項目で記載されている通り、それぞれ必要とされる社外役員の数、常勤者の選定要否、会計監査人の設置要否などで要件が異なっています。
例えば、監査役会の場合、最低限3人が必要とされますが、監査機能の強化のため、人数を1名増やす場合、監査役会において必要とされることは『半数以上が社外である』ということから、監査役総数4人うち社外2人(社内2人)ということが可能となります。 これに比べ、監査等委員会(指名委員会等設置会社の監査委員会も同様です。)では、社外の人材確保として『過半数』であることが必要であるため、監査等委員が4人となった場合に、「社外2人(社内2人)」ということは採用できないことになります。
例えば、@上場を目指し監査役会(社内の常勤1人、社外の非常勤2人)を設置し、監査法人からの監査も受けている、A内部統制の整備も進みつつある、という状況である場合において、社内の常勤監査役が常勤の業務を継続することが困難になった場合(体調面や他社の役員である場合等)、当該会社は、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行が、比較的スムーズに進められるのではないかと思われます。すなわち、現状の社外監査役を監査等委員会設置会社の社外取締役とし、従前の常勤監査役も監査等委員会の一員とすることが可能で、内部統制の整備も進みつつあり(内部統制システムの構築・会社法399条の13第1項1号ハ参照)、監査法人の協力を得られれば(会計監査人の設置・会社法327条5項参照)、スムーズな移行が可能になると思われます。
これは、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は、いわゆる内部統制を利用した組織的な監査を行うことを前提としているため、とされています。すなわち、監査等委員会設置会社では、指名委員会等設置会社の監査委員会と同様に、当該各委員会自体が会議体として組織的な監査を行うこととされ、当該監査に際しては、株式会社の業務の適正を確保するための体制(内部統制システム)を利用することが前提とされているためです。 監査等委員会(指名委員会等設置会社の監査委員会も同様です。)は、内部統制が取締役会により構築・整備され、それが適切に運用されているかを監視し、必要に応じてかかる内部統制を利用して監査に必要とされる情報の入手、監査等委員会の補助者や内部統制部門に対し、指示を行うことで監査を実施していくことが想定されています。 これらの背景としては、監査役会設置会社の監査役は、常勤・非常勤にかかわらず、それぞれが独自の機関として(独任制)、自らが会社の業務財産等の調査を行うことが想定されているのに対し、監査等委員会設置会社の監査等委員会においては、上記に述べたとおり、組織的な監査の実施が前提とされ、各委員については独任制が認められていないことによるものです。 なお、監査等委員会では、常勤者の設置(選定)が義務とはされていませんが、一般的な常勤者の役割である日常の社内情報の収集という重要性に鑑み、「常勤の監査等委員の選定の有無及びその理由」は事業報告の記載事項とされ、株主への開示が行われます(会社法施行規則121条10号イ)。
これについても上記の常勤者の要否と同じ趣旨で、会計監査人が置かれないと、財務情報・財務報告についての信頼性に関し、十分な監査の実施を確保する仕組みの構築が難しく、これに伴い監査等委員会(又は監査委員会)が十分機能しないという理由であると考えられています。
上記のほかにも、任期(監査役会の監査役4年、監査委員会の監査委員1年、監査等委員会の監査等委員2年)、兼任禁止(共通して(業務執行)取締役・使用人等との兼任禁止)など、様々な異動点はあります。 なお、監査等委員会設置会社の導入に関し、「取締役会の構成員として一定の業務執行の決定に関与する取締役が組織する監査等委員会」が、取締役の職務執行を監査することについて、「自己監査である」という指摘もあります。もっともな指摘とも思われますが、これについては、監査等委員が自ら業務執行をせず、業務執行と監督の分離が図られるのであれば、業務執行の決定への関与があっても、経営に関する監督は実効的に果たされる、と考えられているようです。
以上、各機関の概要比較を行いましたが、巷では、上場会社において、指名委員会等設置会社(従前の委員会設置会社)の導入が進んでいないとされています。その主な理由としては、各委員会における社外取締役の数が過半数以上であり、社外の人材確保の負担感があること、社外の取締役が過半数を占める指名委員会及び報酬委員会において、役員の人事や報酬に関する決定がされることへの抵抗感があることなどが考えられると言われています。実際上、これを採用する会社は、東証上場会社において約2%程度にとどまっている(平成24年9月)といわれています。
監査役会設置会社が社外取締役を選任する場合、2人以上の選任が必要となる社外監査役に加えて、社外取締役を選任する必要が生じてくるわけですが、この社外監査役+社外取締役の選任が、会社にとって負担となり、また重複感があるという意見が多く出ていました。 かかる負担や重複感を回避するため、新たに創設されたのが監査等委員会設置会社というわけですが、その導入については、平成27年6月までに導入を表明した上場会社は、180社以上といわれ、相当程度の導入が行われているようです。 このような機関設計の追加が行われた背景としては、株主への説明責任を含めた企業の意思決定の透明性・公平性の担保を前提としながらも、会社の迅速・果断な意思決定を促す「攻めのガバナンス」の実現を目指すということが挙げられますが、近時、日本有数の会社又は世界有数の会社において、不祥事が明るみにでたこともあり、古くから議論されてきたものではありますが、攻めの視点を持ちつつ、守り(監査監督機関における是正機能)もおろそかにならないよう、会社に適合した設計が望まれるところで、監査等委員会設置会社が優れたガバナンス機能を果たすものとして今後、その導入数を増加させていくのか注目されるところです。